ハノーファーにはオペラハウスやシャウシュピールハウスなど、劇場がいくつもあります。さまざまな演目の歌劇や踊り、演劇が披露されており、劇場の建物には大きな宣伝幕(バナー)がかかっているのが目に留まります。ハノーファー国立劇場では2015年から、使用済みとなった宣伝幕を利用して、おしゃれな劇場バッグを製作しているのです。
宣伝幕は幅4メートル、長さ6メートルで、頑丈な合成繊維でできています。市内には複数の劇場があり、演目は毎月のように変わるため、 年30個ほどの宣伝幕が使われるそう。以前はそれをごみとして処分していましたが、環境に配慮し、特製バックを作ることに。いわゆるリサイクルです。
バッグには3種類あり、「ヘンゼル」と呼ばれる小さい手提げバッグは5ユーロ、大きめの手提げ「グレーテル」は15ユーロ。被せのついた肩掛けカバンは「魔女」と名付けられ、25ユーロします。命名が演劇っぽくて楽しいですね。
大きな宣伝幕から作るため、アルファベットの1文字の半分だけ入っていたり、単色のものや、抽象的な模様のもの、唇や目など人の顔のアップがプリントされているものなど、大胆な柄になっています。
お祭りに合わせてオペラハウスの前で販売
バッグの縫製は市内の障がい者施設が担当しており、劇場が宣伝幕を適度な大きさに切断し、洗浄して施設に持ち込みます。持ち紐は別途調達しており、赤、ピンク、黄色、緑など色鮮やか。どの生地にどの色の紐を使うかは、縫う人が決め、バッグには縫った人の名前を入れます。紐と生地の絶妙な色合いが魅力的で、一つとして同じものはありません。演劇ファンはもとより、ちょっと変わったおしゃれなバッグとして一般の人からも好評を得ているようです。
劇場の担当者ミヒャエル・リムバッハさんは、「裁縫者たちとのコミュニケーションが楽しいし、環境にやさしいことをしていると思うと意義がある」と話します。なかには舞台で使用した灰色の毛布を使ったバッグもあり、「冬は座布団代わりにもなるし、便利だよ」と笑います。「マリリン・モンロー」柄だけは例外で、好評により宣伝幕のデザインをそのままバッグ用に特別製作しました。
:「X」のTシャツを着た劇場職員とバッグ
劇場全体では、1000人ほどが働いています。多くの人が協力して一つの劇を作り上げますが、その名残りがバッグとして日常生活の中に生き続けます。ハノーファーの劇場を訪れたら、一度ショップをのぞいてみてください。自分だけのお気に入りのバッグが見つかるかもしれません。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。