南ドイツを旅すると、壁画が描かれた古い建物を見かけることがあります。公共建築物やホテル、個人の家などに宗教や生活の様子をモチーフとしたもの、窓や扉を彩る実際的な装飾を兼ねたものなど、建築時の流行や所有者の美意識を反映させた美しいものです。一方、ミュンヘン市内では建物そのものの厳然かつ整然とした美しさに目を奪われがちですが、じっくり見るとそこここに印象的な装飾があることに気が付きます。今回はミュンヘン中心部でおすすめの壁画をいくつかご紹介しましょう。
今も昔も、女性はショッピングが大好き!
見所が一番集まっているのは、マリエン広場周辺です。仕掛け時計がある市庁舎はいつでも注目の的ですが、今回は周辺の建物を見てみましょう。東隣に建つLudwig Beckは、当時のバイエルン王室御用達商人が1861年に創業した老舗デパートです。ちょっとくすんだオレンジ色の幾何学模様で飾られた壁には、麗しい貴婦人と彼女を迎えて布を広げる男性がいます。ショッピングを楽しむ令嬢と店主でしょうか? 今も昔も素敵な品揃えで買い物客を楽しませる同店らしい装飾ですね。さて、市庁舎の向かいで目立つのは、1883年創業のパン屋のRischartです。その壁はプレッツェルやシュネッケを咥えた鳥たちやケーキ、小麦のモチーフで飾られ、中央には店主夫妻が描かれています。赤と黄色を基調とした、明るく楽しい絵画です。そして、市庁舎の西側にも素敵な壁画が見えます。伝統的なミュンヘン料理を提供するビア・レストラン、 1715年からの長い歴史を誇るDonisl のファサードの上には、ビールと料理を楽しむ客たちとウェイトレスの様子が生き生きと描かれています。ビアジョッキ、白ソーセージ、プレッツェル、典型的なバイエルンのワンシーンですね。その左隣の建物のフレスコ画も昔の民衆が暮らす様子を写したもののようです。こちらは、かつてマリエン広場を警備していた歩哨をノスタルジックなタッチで描いたものです。「古き良き昔」へのオマージュであり、今日でも引き続き広場を守る役目を担ってくれているのかもしれません。
これらの壁画の多くは、第二次世界大戦で大きく破壊されたミュンヘンの復興期である50年代と60年代に造られた「実用芸術」だということです。多くの芸術家が、ミュンヘンという街、そしてバイエルンそのものを表現するために才能と腕を競い合っていたそうです。ドイツが大きな発展を遂げ始める70年代には見られなくなったということに、何かしら象徴的なものを感じます。
鳥たちもパンでパーティーでしょうか?
ひっそりと街を飾る壁画や壁に取り付けられた彫刻は見過ごしてしまいがちですが、色々なストーリーを語りかけてくれているようです。暖かくなったらもう一度、ほかの作品も見に出かけようと思いました。
Kunst am Bau: www.bayern.by/kunst-am-bau-im-ensemble-muenchner-altstadt
日独の自動車部品会社での営業・マーケティング部門勤務を経て、現在はフリーランスで 通訳・市場調査を行う。サイエンスマーケティング修士。夫と猫3匹と暮らし、ヨガを楽しむ。 2002年からミュンヘン近郊の小さな町ヴェルトに在住。