日本でこの夏流行している手足口病は子どもの病気だと思っていましたが、大人も感染するということを耳にしました。あまり聞いたことがないのですが、本当でしょうか?予防接種はできるのでしょうか?
Point
- 乳幼児に多いウイルス感染症
- 大人にも感染します
- 7月がピークの夏風邪の1つ
- 飛沫中と、便中のウイルスが感染源
- ほとんどは自然に治ります
- 予防接種はありません
「手足口病」とは
● ウイルスが原因
コクサッキーウイルスA16、エンテロウイルス71などの腸管ウイルス(Enterovirus)によって生じるウイルス感染症です。感染しても80%以上は無症状に経過します(ドイツのロベルト・コッホ研究所、RKI)。
● 夏から秋にかけて増加
手足口病(Hand-Fuß-Mund-Krankheit)は、日本では7月末頃がピーク(今年は例年に比べ患者数が増加)です。ドイツでは夏〜秋に感染が多くなります。
● 乳幼児に多い病気
4歳までの子どもに多く見られる病気で、2歳以下の乳幼児がほぼ半数を占めています。感染から発症までの潜伏期間(Inkubationszeit)は、3〜6日間で最長30日間になることも。
● 飛沫(ひまつ)と便を介して感染
主に喉からのウイルスによる飛沫感染で、さらに患者の便に排泄されたウイルスが、手や食物を介して経口感染することもあります。
● 手のひら、足の裏、口の中に発疹
口の中の小水疱(Bläschen)と、手のひら、足の裏、手や足の指と指の間に赤い発疹が現れます。発疹は手足の広範囲、肘、膝、おしりにみられることも。
● そのほかの症状
軽い発熱(約3割の患者)や頭痛があるほか、口内炎の影響で唾液(Speichelfluß)が増えたり、食事が取りにくくなります。
● 自然に治ります
ほとんどの場合は、治療をしなくても5〜7日間程度で自然に治ります。
● 手足口病を繰り返す?
一度感染して免疫ができていても、別のウイルスによる手足口病を発症することがあります。
夏風邪の1つです
3大夏風邪
手足口病 | ヘルパンギーナ | プール熱 | |
症状 | 手のひら、足の裏、 舌や口の中の発疹 飲食で痛み |
発熱、 のどの水疱 飲食で痛み |
高熱、 のどの痛み、 目の充血、 まぶしい |
原因 | 腸管ウイルス | 腸管ウイルス | アデノウイルス |
感染 | 鼻やのどからの分泌物、 便からのウイルス接触 |
接触、飛沫 | |
潜伏期 | 3〜 6(〜 30)日 | 2〜4日 | 2〜14日 |
発症年齢 | 多くは乳幼児 | 多くは乳幼児 | 15歳未満が多い |
大人 | まれにあり | まれにあり | まれにあり |
● 3大夏風邪って?
①手足口病 ②ヘルパンギーナ(Herpangina) ③プール熱(咽頭結膜熱、Pharyngokonjunktivalfieber)は、いずれもウイルス感染症で、日本では3大夏風邪(Erkältung im Sommer)と呼ばれます。
● 冬の風邪と夏風邪のウイルス
原因となるウイルスが異なります。夏風邪ウイルスは高温多湿を好むタイプ(エンテロウイルスなど)、冬の風邪ウイルスは乾燥した冷たい温度を好みます(コロナウイルスなど)。
● 気温変化やエアコンによる体調障害
ドイツの家庭にはエアコン(Klimaanlage)がほとんどないためあまり問題になりませんが、日本の屋内では空調の影響で体調を崩し、のどの痛みなどの風邪症状を来すことがあります。ドイツでは朝夕の気温変化に注意。
大人の手足口病
● 疑ってみる症状
乳幼児だけではなく大人も手足口病を発症します。子どもが手足口病を患った後に、口内炎と手足に薄いぶつぶつが見られる、風邪のような感じ、関節や筋肉が痛むなどがみられる場合には、可能性があります。
● 大人では症状が重い
発疹の痛みは大人のほうが強く、時には足裏の発疹のため歩くと痛かったり、手の発疹の痛みでコンピュター操作に支障がでることもあります。
● 関節痛、筋肉痛も
大人では、関節の痛み、筋肉の痛み、寒気、全身倦怠感など、インフルエンザに似たような症状を呈することがあります。
妊娠中の手足口病
● 日本産婦人科医会の見解
「妊娠中に罹患することはまれで、発症した場合の詳しい分析報告はなく、胎児異常との明らかな因果関係を証明した報告はありません。ほとんどの場合、症状に応じた治療を行い、慎重な経過観察だけで済むものと考えられています」(2019年7月5日発表)。
● ロベルト・コッホ研究所(RKI)の説明
「エンテロウイルスはどこにでもいるため、妊娠中の人が接することもあり得ます。感染しても無症状か、発症はまれですが軽い症状を呈することも。仮に出産時に罹患している場合には、新生児にも感染して軽い症状を呈することも可能性として考えられます。非常にまれなものの重症化のリスクは生後2週間の間が高いとされています」(ドイツのRKIの解説)。
手足口病の予防
手足口病の予防と治療の基本
予防 | 予防ワクチンはありません |
接触感染を防ぐ手洗いをしっかり | |
十分な睡眠 | |
治療 | 特別な治療法はありません |
水分の補給 | |
刺激の少ない柔らかい食べ物を食べる | |
全身状態が改善すれば登園・登校可 |
● 予防接種はありますか?
手足口病には、有効な予防ワクチンがありません。そのため、夏風邪に感染しやすい人混みの多い場所は注意が必要です。子どもの体調が優れないときは、多くの人が出入りする場所に連れて行くのを控えることをおすすめします。
● 子どもが罹患したら
手足口病は乳幼児の病気と決めつけずに、自宅で患児の世話をする人も含め手洗い、うがいを念入りに行って感染に気をつけるようにしましょう。タオルの共有は避けてください。
● 感染源としての便中ウイルス
手足口病の症状が消失した後も便へのウイルス排泄は長期間(2~4週間)に続き、知らないうちに新たな感染源になることがあります。ドアノブから感染することもあるため、日頃から帰宅後、用便後、食前の手洗いをきちんと行いましょう。
手足口病の治療
● 特別な治療法はありません
通常の手足口病は自然に治る病気のため、特別な治療は必要としません。脱水が疑われるときは補液などの水分・電解質の補給、痛みに対する鎮痛薬など対症療法(symptomatische Behandlung)が行われます。
● 水分と軟食
お腹は空くけど口内炎の痛みから食事ができない場合があります。まずは水分補給に心がけ、食事には味に刺激が少ないスープ類や比較的柔らかい食べ物を用意しましょう。
● 危険な合併症も
まれにウイルスが中枢神経に達すると髄膜炎や脳炎などの合併症を起こすことがあります。高熱、頭痛、傾眠傾向、嘔吐などの症状がみられる場合には、すぐに医療機関を受診してください。
● 登園、登校停止期間
日本もドイツも基本的に「食事ができて元気がよければ登園・登校可能 」です。ドイツでの保健機関への届け出義務はありませんが、発熱や喉頭・口腔の水疱がある急性期は出席を控えます。