食後でもないのにげっぷが頻繁に出ます。おなかの調子がすっきりしないと、全身の力も入らない気がします。腸内の菌が関係すると聞いたことがありますが、本当ですか?
Point
- 腸内の善玉菌、悪玉菌のバランス
- 腸内細菌は免疫力にも関与
- おならの多くはのみ込んだ空気
- 小腸で細菌繁殖してガスを産生するSIBO
- 砂糖の摂取で増える腸内カンジダ
- 抗菌薬の使い過ぎで善玉菌も消滅
- プロバイオティクスとプレバイオティクス
腸の構造と機能
● 小腸(Dünndarm)
大人で長さが6~ 7メートルある、体の中で1番長い臓器です。消化された食物をさらに分解、栄養を吸収する働きと、私たちの免疫力の約7割を担う腸管免疫の働きがあります。
● 大腸(Dickdarm)
長さは大人で約1.5メートル。蠕ぜんどう動運動により内容物を運びながら、水分やミネラルを吸収します。食べた物が便として排泄されるまで通常1〜3日ほどかかります。
腸の役割
下痢と便秘
● 下痢(Durchfall)
水分を多く含みどろどろした液状の便です。原因は、食べ過ぎ飲み過ぎ、人工甘味料入りダイエット飲料、乳糖不耐、超硬度の硬水、細菌やウイルス感染、薬の副作用、腸・膵臓・肝臓などの病気、と多岐にわたります。下痢が続くと体のカリウム(K)が失われ、筋力が低下し階段を登るのが辛くなることも。
● 便秘(Verstopfung)
排便の回数が少なく、硬くて出にくい場合を指します。2~ 3日に1度の排便でも、不快な症状を伴っていなければ異常とはいえません。大腸の蠕動運動の低下、排便を我慢する習慣、運動不足、食物繊維の摂取不足、大腸がん(Darmkrebs)などによる腸管の狭まり(器質性便秘)、咳止め(コデイン製剤)の副作用などが主な原因として挙げられます。
げっぷとおなら
● げっぷもおならも正体は呑気(どんき)
私たちの口からげっぷ(おくび、Luftaufstoßen、Rülpsen、Bäuerchen)が出る原因のほとんどは、食事や話し中に無意識に飲み込む空気です。10ミリリットルの水を飲むと一緒に8~32ミリリットルもの空気を飲み込むとされます(1996年の米国消化器病学会誌 Gastroenterolgy誌より)。胃食道逆流症があるとげっぷが出やすくなります。十二指腸より先まで行った空気は、おならになります(Furz、Pup)。
● かみしめ呑気症候群
奥歯をかみしめると唾液が奥へ流れ込みやすく、一緒に呑み込む空気も増えます。パソコン作業に集中して無意識に歯をかみしめている人に起こりやすく、肩こり・頭痛を伴うことも(第49回日本心身医学会総会および第111回日本心身医学会地方会での発表)。当然おなかが張りやすく、おならも増えてきます。
● 腸管ガスと臭いおなら
さらに大腸で腸内細菌が食物を分解、発酵、腐敗させ、硫化水素やインドールなどの臭いガスを発生させます。腸内環境が悪く異常発酵を起こすと、おなかにガスが溜まります。便秘に良いはずの食物繊維がガスの原因になることも。
腸の微生物の世界
● 腸内の微生物の数
私たちの腸内には少なくとも300〜500種、数にして200万個(2003年のLancet誌の総説)〜100兆個(2010年のPhysiol Rev誌)もの微生物(腸内細菌、アーキア、真菌、ウイルスなど)が住んでいます。何と便に含まれる有機物の25~ 58%は細菌です(2015年のRev Environ Sci Tech誌)。
● 腸内の善玉菌と悪玉菌
腸の中には ①善玉菌(20%)、②悪玉菌(10%)、③体が弱まると悪影響を及ぼす日ひよりみきん和見菌(70%)が共生して腸内環境を整えています。善玉菌の代表は乳酸菌(Milchsäurebakterien)とビフィズス菌(Bifidobacterium)、悪玉菌の代表はウェルシュ菌(Clostridium perfringens)です。
● 人と腸内細菌の関係
人と腸内細菌叢
そう(Darmflora)は相互扶助的な関係にあり、腸内細菌は ①人に栄養(例えば、ビタミンK)を供給したり、②腸内の免疫力を維持するのに役立っています。● 高齢化と腸内細菌
腸内細菌叢は加齢によって変化し、高齢になると善玉菌が減って、悪玉菌の割合が増えます。「老化は腸から」とも(2017年のJ Gerontol誌)。
● 食事内容と腸内細菌
不規則な食事や偏食が腸内細菌叢のバランスを乱すとされています。一方、腸内細菌叢は個人差が大きく、同一の食事でも同じ細菌叢を作らないとの観察も(2018年の医療情報誌Animus誌)。
腸内細菌と病気
● 小腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)
本来は細菌数が少ない小腸で常在菌以外の細菌が過剰に増殖、ガス発生による腹部膨満感をはじめ、さまざまな症状を来すものです。最近は過敏性腸症候群(IBS)との関連も指摘されています。
● 乳糖不耐症と腸内細菌
日本人に多い乳糖不耐症は年齢とともに増加。実は乳糖の消化分解にも腸内細菌が関わっています(平成13年度牛乳栄養学術研究会 委託研究報告書)。乳糖を分解できる腸内細菌が増加すると、乳糖による下痢の誘発も減る可能性が指摘されています。
● 腸の病気と腸内細菌
潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)と腸内細菌による腸管の免疫機能との関連(2020年のGut Pahog誌)、機能性腸疾患である過敏性腸症候群(IBS)との関わり(2019年のGastroenterol誌の総説)が研究されています。今後の成果が期待されている領域です(2019年のPathogens誌の総説)。
腸内微生物叢の改善は?
● プロバイオティクス(Probiotikum)
乳酸菌やビフィズス菌など腸内環境に好影響を与えることが予想される善玉菌を含む製剤(ビオフェルミン®、OmniBiotic®、Symbiolact®など)や食品をプロバイオティクスといいます。腸内細菌学の第一人者の光岡知足氏(東京大学名誉教授)は「腸管免疫の賦活には生菌か死菌かではなく菌の数が重要」としています。
● プレバイオティクス(Prebiotikum)
腸内の善玉菌を増やしたり、プロバイオティクスの働きを助ける可能性のある食品成分のことをいいます。
プロバイオティクスとプレバイオティクスの違い*
プロバイオティクス | プレバイオティクス |
善玉菌を含む製剤・食品で、善玉菌を直接腸へ | 善玉菌のエサにとなり、善玉菌を増やす可能性がある |
乳製菌、ビフィズス菌 | 食物繊維、オリゴ糖 |
ヨーグルト、チーズ、整腸剤などに含まれる | シイタケ、レタス、玉ねぎなどに含まれる |
異常増殖を防ぐ
● カンジダの異常増殖を防ぐ
カンジダ(酵母型)は健康な人の腸内に存在する真菌(カビ)の一種です。腸内カンジダが過剰に増えると、腸管壁に菌糸を伸ばす菌糸型カンジダが増えてさまざまな健康障害の原因になります。カンジダは糖分を栄養源とするため、砂糖の摂り過ぎは控えましょう。
● 抗菌薬の乱用を避ける
抗菌薬は、腸内の悪玉菌だけでなく善玉菌も取り除いてしまいます。残った日和見菌が増えて悪さをしたり、前述のカンジダやウイルスが勢力を伸ばすことに。
● 大腸洗浄は?
頑固な便秘の改善(と美容)の目的で行われることのある大腸洗浄(Darmspühlung、Darmreinigung)はどうでしょう? 人によって一定の効果があるものの、善玉菌も洗い流すことや繰り返しによる弊害もあり、大腸内視鏡検査の前処置のような医学的必要性以外は慎重になるべきとの指摘があります(2020年6月20日のT-Onlineのニュースサイト、カナダのGI Society)。