ジャパンダイジェスト

インフルエンザと鳥インフルエンザ

鳥インフルエンザが話題になっていますが、通常のインフルエンザの予防接種は鳥インフルエンザにも効くのでしょうか?

鳥インフルエンザの予防ワクチンはありますか

残念ながら、答えはノーです。ヒトに用いることのできる鳥インフルエンザの予防ワクチンはまだありません。私たちが使っている通常のインフルエンザのワクチンは、流行が予想されるAソ連型(H1N1)、A香港型(H3N2) やB型に対するもので、H5型およびH7型などの鳥インフルエンザには効果がありません。

鳥インフルエンザが鳥からヒトへ感染することは非常に稀で、さらにヒトからヒトへの感染は例外的です。しかし、ウイルスは構造が簡単で突然変異を起こしやすく、ヒトからヒトに感染しやすい新型インフルエンザに変化する可能性もあり、人に効くワクチンの研究が精力的に行われています。

インフルエンザと鳥インフルエンザの関係は?

ドイツ語でインフルエンザをGrippe、鳥インフルエンザをVogelgrippeと呼びます。周期的に流行することから、昔は星や気象の影響(influence→インフルエンザ)と考えられていました。鳥類を宿主とするウイルスを鳥インフルエンザウイルスと呼び、特に鳥に対して病原性の高いH5型やH7型のウイルスを、高病原性鳥インフルエンザウイルスと呼んでいます。現在のヒトのインフルエンザウイルスも、本来は水鳥が宿主であったと言われています。

鳥インフルエンザに感染した人はどのくらいいるのでしょうか?

世界保健機関(WHO)の報告によると、2003年からこれまでに高病原性鳥インフルエンザA型(H5N1)に感染確定された人は世界で144人、うち76人が死亡しています。ベトナム、タイ、インドネシアでの発症例が大多数ですが、今年の年明け早々にはトルコ東部に住む兄弟が死亡しました。トルコでは同10日にも、国内で15人目となる37歳の女性が感染患者として確認されています。

香港(1997年)、オランダ(2003年)、タイ(2004年)およびベトナム(2005年)の症例ではヒトからヒトへの感染が疑われていますが、今のところ、ヒトからヒトへの感染は例外的と考えられています。

鳥インフルエンザの予防と治療方法を教えてください

ドイツで暮らす場合、特に鳥インフルエンザの予防をする必要はありませんが、病鳥や死んだ鳥との接触は避けるべきです。鳥インフルエンザが集団発生している地域では、不要に鶏舎などに近づかないことが大切です。ただし、鳥インフルエンザのヒトへの感染は鳥や病鳥と密な接触があった場合に限られていますので、仕事などで発症国へ渡航すること自体には問題がないと考えてもよいでしょう。

これまで鶏卵や鶏肉を食べることによりヒトに感染したという事例は報告がありません(日本の食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省、環境省)。発症が疑われた場合には、出来るだけ早くタミフル(リン酸オセルタミビル)を飲みます。鳥インフルエンザは死亡率が高いので、確定診断を待たずに薬の投与が行われます。

図1

インフルエンザと風邪の違いは?

さて、ここからは通常のインフルエンザのお話です。インフルエンザは冬期に爆発的な流行を起こす感染症で、学校閉鎖なども話題になります。インフルエンザは、急に発症する38度以上の高熱、頭痛、関節・筋肉痛や鼻いん頭、気管支の炎症を起こします(表1)。風邪も症状は似ていますが、普通の風邪の場合は強い全身症状を伴うことは余りありません。

表1 インフルエンザの症状
・ 突然の発症 ・ 38℃を超える発熱
・ 上気道炎症状 ・ 全身倦怠感などの全身症状

インフルエンザの潜伏期間は1~3日間で、大人の場合1~2週間で自然治癒します。しかし、乳幼児やお年寄りでは肺炎などを併発して死に至ることもある病気です(表2)。日本の医療現場では診断補助のために迅速診断キットが普及しており、通常30分以内に結果が判定できるようになっています。

表2 ヒトにおけるインフルエンザと鳥インフルエンザ
  インフルエンザ 鳥インフルエンザ
原因ウイルス インフルエンザウイルス インフルエンザウイルス
ヒトにおける主なウイルス亜型 A型H1N1、A型H3N2
B型など
A型H5N1
A型H7N7
宿主 人間
ヒトへの感染 大流行しやすい 極めて稀
潜伏期 1~3日 2~7日(最長17日)
経過 ほとんどが自然治癒 死亡率が高い
現在までの発症地 日本・ドイツを含む世界各地 ベトナム、トルコ、タイ、 中国、インドネシア、カンボジアなど

予防ワクチンは効果があるのでしょうか

現在流行の頻度が高いのはAソ連型ウイルス、A香港型ウイルス、B型ウイルスの3種類で、毎年10~12月を中心に行われている予防接種も、これら流行が予測されるウイルス亜型を対象にしたものとなっています。高齢者の場合、ワクチン接種により死亡の危険が約5分の1に減るとされています。

本来は1度ウイルスに感染すると長期にわたる免疫が獲得できます。しかし、実際には毎年のようにインフルエンザに罹患する人もいます。これはウイルスが少しずつ変異を重ねて巧みに人の免疫機構から逃れているためです。歴史的にみると数十年に1度は全く新しい新型インフルエンザが流行しています。そのような場合、ヒトに免疫が備わっていないため大流行となる可能性があります(表3)。

表3 有名なインフルエンザの流行
・ スペイン風邪(1918年) ・ アジア風邪(1957年)
・ 香港風邪(1968年) ・ ソ連型(1977年以降)

1シーズンに2度もインフルエンザに罹りました

1度インフルエンザに感染すると免疫が出来ます。しかし、それぞれの型のウイルスに対する免疫反応は別のものです。従って、抗原性の違う2種類のインフルエンザが同じシーズン中に流行した場合は、A型インフルエンザとB型インフルエンザに罹ったりすることもあります。

鎮痛解熱剤を使用してもよいでしょうか

高熱と体の節々の痛みといった症状を和らげるため、熱冷ましや痛み止めを使いたいのが人情です。しかし、アスピリン、ジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸などの鎮痛解熱薬はインフルエンザ脳症を引き起こす危険性があるため、特に15歳未満の子供のインフルエンザには投与してはいけません。そのほかの非ステロイド系消炎剤の使用も慎重に。自宅にあるからといって、中身が明らかでない場合には安易な服薬は避けることが賢明です。小児のインフルエンザの発熱には、アセトアミノフェンが最も危険が少ないと考えられています(日本小児科学会2000年)。

インフルエンザの治療薬にはどのようなものがありますか

インフルエンザの治療は、以前は対症療法が主体でした。しかし最近は従来パーキンソン病の治療に用いられてきたシンメトレル(塩酸アマンタジン)という薬や、発症後48時間以内であればタミフル(リン酸オセルタミビル)、吸入薬のリレンザ(ザナミビル)がインフルエンザ治療薬として使われています。いずれもウイルスの増殖を抑制する薬で(ウイルスを殺すわけではありません)、罹病期間の短縮などが確認されています。

一方、タミフルは日本での使用量が世界のほぼ半分と突出しており、因果関係は明らかでないものの死亡例や異常行動例が報告されています。むやみな使用は慎むべきだと思われます。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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