ザヴィニー広場駅から徒歩3分。木で作られた看板を目印に戸を開けると、店内の壁は古い曲げ木の椅子で埋め尽くされていました。曲げ木で作られているのは椅子だけではありません。テーブル、ロッキングチェア、コート掛けに子ども用家具など、優美な曲線を描くアンティーク家具が店内にずらりと並べられています。
奥行きのある店内には、壁一面に曲げ木の椅子が掛けられています
「ビーゲン・オーダー・ブレッヒェン(Biegen oderBrechen)」、直訳すると「曲げるか折るか」というちょっと不思議な名前のこのお店は、古い曲げ木家具の販売と修理を専門に行う工房です。案内してくれたのは、現在の店主であるニルス・アーナーさん。曲げ木家具の職人として15年以上の経験を積んできたニルスさんは、先代の店主が高齢のため引退する際、この店を引き継ぎました。先代が店を構えたのは約40年前で、何度か移転しつつベルリンの地で営業を続けています。
曲げ木の椅子というと、1930年までに5000万脚が生産された傑作「Nr.14」や、近代建築の巨匠ル・コルビュジエに愛された「Nr.6009」などで知られるトーネット社が著名です。このお店にはまさしくその時代の、つまり19世紀半ばから20世紀初めの製品が欧州全土から集められています。
作業台。手前に修理中のコート掛けが見えますね
「かつては各地を回って家具を集めていましたが、現在はインターネットを通じて取り寄せることが一般的ですね」とはニルスさんの弁。古くて質のいい曲げ木の家具はフランスに多く存在しているのだとか。
筆者自身、木で作られた家具が大好きということもあって、店内は宝の山のように感じました。壁に整然と掛けられた道具や、籐とうで編まれた座面が割れてしまい修理待ちとなっている椅子、黒い塗料を塗ったばかりで乾燥中のコート掛け。作業をする音だけが響く静かな空間は、ベルリンの喧騒から切り離された心地いい「別世界」でした。
ニルスさんは修理の技術や家具の目利きを、職業訓練などではなく、全て先代の店主から学んだそうです。「学んで、何か一つできるようになって、また一つ学んで……の繰り返しです」と謙虚に語るニルスさんですが、その言葉の奥に曲げ木家具に対する深い愛情と静かな情熱が感じられました。
修理を実演してくれたニルスさん。コート掛けに使う丸い部品を加工中
機械による工業化と手作業の融合で、19世紀半ばに生まれた曲げ木の椅子。スカンジナビア産のモダンな椅子とは異なる、シンプルかつ優美な曲線美は、現在でも全く魅力を失っていません。それらを今も修理できる職人がいるのは、本当に幸運といえるでしょう。家具の修理や販売に関しては郵送でも対応できるそうなので、興味のある方は公式サイトにアクセスしてみてください。美しい曲げ木の家具よ、永遠なれ!
Biegen oder Brechen:www.biegen-oder-brechen.de