現代の日本において「勉強するための手段」として確かな地位を築いている学習マンガ。あらゆるジャンルの学習マンガが書店に並び、子ども向けだけでなく大人向けの内容も珍しくありません。ところが、今回取材させていた『Aha! Comics』編集長の田中翔子さんはあるときハッと気付いたといいます。
動物のキャラクターたちと一緒にかけ算を学んでいきます
「親しい人と『お互いの国のことをもっと知りたい』となった時、簡単に知る術がない。日本では当たり前に存在していた学習マンガが、ほとんどの国に存在していないことに気づきました」。世界の一部では学習マンガというジャンルが認知されているものの、欧州や米国では「マンガはエンターテインメント」という考えが一般的です。一方で田中さんは、学習マンガのメリットとして「難しい内容でも、絵とストーリーがあれば分かりやすくなる」、「素早く読んだりゆっくり読んだり、自分のペースで学習できる」などを挙げます。
「欧州にもマンガの市場は存在しています。その中で、マンガをエンタメとしてだけではなく、学習マンガという別のメディアとして世界で確立させたいという強い思いがありますね」。田中さんの「世界に学習マンガを広めたい」という思いは、少しずつ形になっていきます。ドイツはドイツ以外にルーツを持つ人々が約4分の1を占める多民族国家。さらに田中さんの住むベルリンは、ドイツ有数の多国籍人種が集まる街です。ドイツ語が不自由な子どもたちが学習に苦労している様子を見聞きするにつれ、『Aha! Comics』の最初の題材が絞られてきました。
ベルリンを中心に多くの図書館に配布され、非常に好評を博しています
「ドイツでは日本のように九九が存在しないので、かけ算でつまずく子どもがとても多いです。そこで最初の題材は、かけ算をわかりやすく学べる学習マンガにしようと考えました」。筆者がとても感動したのは、『Aha! Comics』に登場する動物のキャラクターたちがステレオタイプにとらわれていないということです。お父さん役のキャラは真っ赤なシャツを着て、お母さん役のキャラは活動的なパンツ姿で登場。「とにかく多様性を大事にしました。女の子はリボン、といった画一的な表現は極力避けています。紙質にもこだわって、少しザラザラした紙を採用しました。テスト配布の現場から、『ぬり絵にしたい』というフィードバックをもらったことがきっかけです」。
新型コロナウイルスが蔓延するなか、ベルリンと東京の完全リモートで制作された最初の『Aha!Comics』。すでにベルリンの図書館と小学校を中心に、3000部が配布されました。そこでの反応は非常に好評で、早くも続編を求める声が上がっているとか。「わり算編や大人向けの内容も作りたいですし、もっと多言語にも対応していきたい。『Aha!(わかった!)』という瞬間を読者に届けて、世界の教育水準の底上げに貢献していきたいですね」。
『Aha! Comics』ベルリンメンバー
● Founder / Chief Editor:田中翔子(Whatever Berlin)
● Comic Artist:高田ゲンキ
● Translator / Researcher:希代真理子
● Translator / Researcher:岩川咲也
● Copy Writer:ルンツェ清(Momonga)
『Aha! Comics』:https://aha-comics.com