コロナ禍によりさまざまな文化活動が制限を強いられるなか、ドイツではタブレットやスマホを見る代わりに紙の本を手に取る人が増えているといいます。連邦政府と州政府の協議の結果、3月8日から書店や生花店の営業が緩和されていますが、ベルリン州では昨年春の最初のロックダウン時から、書店は「生活必需品」として営業を認められていました。
そのようななか、存在感を高めているのが地域に根ざした街の本屋さんです。今回ご紹介するシェーネベルク地区のバイエルン広場書店(BuchladenBayerischer Platz)は、その中でも並外れた存在と言えます。
シェーネベルク地区にあるバイエルン広場書店
理由として挙げられるのは、まずその100年を超える歴史。ユダヤ人のアナーキストで作家のベネディクト・ラッハマンによってこの書店が創業されたのは、第一次世界大戦が終わって間もない1919年にさかのぼります。1920年代の顧客には、当時この界隈に住んでいたアルベルト・アインシュタインもいたそうです。しかし、1941年にラッハマンはナチスによりポーランドのゲットーへ強制輸送され、命を落としました。
戦後ラッハマンの後継者が書店の営業を再開し、1975年からはクリスティアーネ・フリッチュ=ヴァイトさんが3代目のオーナーを務めています。すでに14歳のとき、書店の仕事をしたいと心に決めたという彼女は、まさにバイエルン広場書店の大黒柱。こぢんまりとした店構えとは裏腹に、店内は広々としており、絵本から専門書まで幅広いジャンルの本が並びます。お客さんに尋ねられると、的確なアドバイスをするほか、毎週木曜にはニュースレター「Literaturkurier」でおすすめの本や書籍界の動向を紹介。約2000人の購読者を持つニュースレターは、驚くべきことに年間を通じて休みなしで届けられます。「毎年夏の休暇には50冊ほどの本を持参し、旅先からニュースレターを書きます。好きなことですから苦ではないんです」と事もなげに語ります。
書店オーナーのクリスティアーネ・フリッチュ=ヴァイトさん
昨年10月、恒例のフランクフルトの書籍見本市が中止になりましたが、フリッチュ=ヴァイトさんは店内で独自にフェアを開催。本家に倣ってカナダをゲスト国に、世界中から文学作品の新作を集めました。
そんなバイエルン広場書店に、昨年11月、新たな栄誉が贈られました。毎年約100の優れた書店に贈られる「ドイツ書店賞」を2015年、2016年に続いて再び受賞したのです。この「ハットトリック」達成に、シェーネベルク地区の区長は「フリッチュ=ヴァイトさんは長年の活動により、この地域に豊かさをもたらしてくれました」と祝辞を伝えました。
バイエルン広場書店は、コロナ禍においても、地域の人々との結びつきを一層強めているようです。
バイエルン広場書店:
www.buchladen-bayerischer-platz.de