2015年初頭、本誌994号で「消えゆく夜行・長距離列車」というレポートを書いたことがあります。利用者の減少や合理化などからドイツや欧州でも歴史ある夜行列車が次々となくなりつつあるという話でした。
それから6年の月日が経ち、状況は変わりつつあります。地球温暖化への危機意識の高まりから、飛行機に比べて二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない鉄道の利点が見直されてきているためです。
電光掲示板に表示された「ストックホルム中央駅行き」の文字
夜行列車に対していち早く積極的な投資をしてきたのがオーストリア鉄道(ÖBB)。昨年12月、同社が運行する夜行列車「ナイトジェット」により、ウィーンからパリを結ぶ路線が約14年ぶりに復活したことが話題になりました。ベルリンからは、ナイトジェットの運行により(一度は廃止された)ウィーンとブダペスト、さらにはチューリッヒを結ぶ夜行列車が定期的に走っています。
また、今年4月にはプラハ発でベルリン、アムステルダムを経由するブリュッセル行きの夜行列車が、オランダとベルギーのスタートアップ企業「EuropeanSleeper」により運行を始める予定。今後も欧州内の路線は拡大傾向にあります。
昨年末のある夜、私はベルリン中央駅に赴きました。この年末年始、ベルリンからスウェーデンの首都ストックホルムを結ぶ夜行列車が臨時運行するというので、様子を見たいと思ったからです。
ベルリン中央駅を発車するストックホルム行きの夜行列車
地上ホームで待っていると、電気機関車に率いられた7両編成の客車が入ってきました。簡易寝台と座席車から成る車両は思っていたよりも古さを感じましたし、コロナ禍で利用者もまばらでした。それでも、夜行列車には独特の風情があります。ベルリン中央駅を20時58分に出たこの列車が、デンマークを経由して翌日14時15分にストックホルムに着くのかと思うと、いつか乗ってみたいという思いに駆られました。4月からこの列車は毎日運行される予定です。
このように夜行列車復活の気運がある一方、ドイツ鉄道は積極的なヴィジョンを提示するに至っていません。実際今の状況では、夜行列車の採算性に関して未知数の部分があります。
緑の党の鉄道政策担当、マティアス・ガステル氏は、「ドイツは夜行列車再生のため欧州連合(EU)内でも中心的な役割を果たすべきだ。コンフォートクラスや自転車持ち込みの車両などのサービスを作り、競争力を高めるべきではないか」と提言しています。緑の党がショルツ首相率いる新政権に加わった今、夜の鉄道網がどう変わるか注目していきたいです。