コロナ禍の規制緩和により、ようやく対面での文化イベントが再開されるようになったのはうれしいことです。3月28日から約1カ月、ベルリン市庁舎(赤の市庁舎)ではベルリン日独センターとケルン日本文化会館との共催で、藤塚光政写真展「日本木造遺産 ―千年の建築を旅する」が開催されました。
これは日独友好160周年記念事業の締めくくりとして、ベルリン州首相府と在独日本国大使館の協力を得て実現したもの。オープニングセレモニーでは、ベルリン州のアンナ=マリア・トラスネア政務次官が「日本とドイツの間は8000キロほどの距離で隔てられていますが、堅固な橋で結ばれています」と語り、ベルリンと東京の姉妹都市関係にも触れながら、開催の喜びを述べました。
赤の市庁舎で開催された展覧会の様子
赤れんがの市庁舎の中に入ると、大聖堂を思わせる高い天井の空間が広がります。長い階段を上がると、そこが写真展の会場になっており、自分にとってはなじみ深い日本の木造建築との新鮮な遭遇が待っていました。例えば出雲大社御本殿(島根県)や、錦帯橋(山口県)、など計23の建築の写真が展示されています。
写真家の藤塚さんは、「(せいぜい100~140年の寿命に過ぎない近代建築に対し)日本の木造建築は、何百年、千何百年前の姿のままで現存しています。つまり、今も往時(おうじ)のままを体験できる現代の建築であり、次の世代に渡すべき『未来建築』でもあるのです」と語ります。
では、なぜそれらの木造建築が優れているのでしょうか。藤塚さんは好奇心をもって、時に寺の床下にまで潜り込み、岩山を抱えるように柱が立つ様子をカメラで捉えます(千葉県の笠森寺観音堂)。あるいは、若い頃はパイロットに憧れたという藤塚さんが、ヘリコプターから朝の平等院鳳凰堂(京都府)を撮った1枚もインパクトがありました。
1796年に造立された会津さざえ堂
極限まで接写したかと思うと、時には大胆に俯瞰(ふかん)する。まさに変幻自在の視点で、それぞれの木造建物の手触り感や鮮やかな色合い、さらにはストラクチャーの面白さまで見せてくれます。私にとっては、小学生の頃、祖母と訪れた会津さざえ堂(福島県)といった懐かしい建物との再会もありました。
会場を出ると、赤の市庁舎はウクライナ国旗で彩られていました。貴重な文化遺産も人々の生活も、一瞬で破壊する戦争の現実と共に、ケルン日本文化会館の相澤啓一館長が展覧会のオープニングで述べた言葉が思い出されました。「展覧会は暴力の終結や被害者の救援に直接貢献することはできませんが、非人間的な残虐行為が今この瞬間にも起きているなかで、文化や芸術は人間がいかに素晴らしい創造を成し遂げられるかを私たちに思い出させ、励ましてくれます」。