この4月末、クロイツベルク地区にあるギャラリーCLB Berlinで、ヴィラ鴨川 10周年を記念した展覧会「Verbindungsstücke - つなぐモノ語り」のオープニングが行われました。
4月28日に行われた展覧会のオープニング
京都にあるゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川では、2011年からドイツ人アーティストが3カ月ここに滞在し、その土地や作家同士の交流からインスピレーションを得ながら創作活動を行うレジデンスプログラムを提供してきました。文学をはじめデザイン、美術、音楽、建築、舞台芸術など幅広い分野から、これまでヴィラ鴨川に滞在したアーティストは130人。記念すべき10周年がコロナ禍と重なってしまったとき、エンツィオ・ヴェッツェル館長はヴィラ鴨川での創作プロセスや雰囲気を伝えるモノをアーティストに送ってもらうというアイデアを思い付いたそうです。
この展覧会で扱っているのは、最終的に73人から送られてきた「つなぐモノ」。日本滞在中に愛用していたシャープペンシルから、大切な1冊、スケッチ、小物類まで、思い出や創作にまつわる多種多様なモノがそのエピソードと共に紹介されています。
「つなぐモノ語り」展のカタログ(Wasmuth&Zohlen出版)
8月末、この展覧会のユニークなカタログのデザインを担当したベルリン在住のフェルディナンド・ウルリッヒさんと出雲利弥さんに話を伺いました。書体グラフィックデザイナーとして活動する出雲さんは、「日本語とドイツ語両方のページを同じ比重にすることを目指し、2人がそれぞれ片言語からレイアウトを始めて、デザインを擦り合わせていきました。日本の服の裏地のように、隠れた場所に派手な色を使うなど、工夫を凝らしました」と語ります。
緑の箱を外すと、黄色の冊子と、薄紫のカタログ本体に分かれます。カタログは1作品ごとのカードになっていて、表にはその写真、裏にはアーティストによるエピソードが二つの言語で書かれています。ランダムにめくっているだけでも楽しく、それ自体が工芸品のような美しいカタログに仕上がっていました。
「つなぐモノ語り」展のカタログ(Wasmuth&Zohlen出版)
タイポグラフィーを専門にするウルリッヒさんは、「出雲さんとの共同作業を通して、文字や字体から日本文化を学ぶ機会になりました。いわば、このカタログが私にとっての『つなぐモノ』になったといえますね」と語ってくれました。
「モノは通過できるが、人の往来はできない」(ヴェッツェル館長)状況を逆手に取って生まれた今回の記念展示。もともとベルリン芸術大学で知り合ったという二人のデザイナーにとっても、文字という媒体を通じて日独の文化を行き来する、心躍る時間になったようです。