多くのショッピング施設が立ち並ぶ、ベルリン南部に位置する繁華街「シュロス通り」。地下鉄のシュロス通り駅を出て北に進むと、繁華街の中にひときわ目を引く建物が見えてきます。気になって近寄ってみても、何か営業をしているようには見えないし、中には入れないし、これはいったい何……?
あまりにユニークな外観から、地元住民からも愛着半分、さげすみ半分で親しまれているこの建物は、その名も「ビアピンゼル」(ビール筆という意味)といい、シュロス通りのランドマークとして知られています。高さは47メートルで、2010年頃にストリートアーティストによって監修された、カラフルな外観が特徴です。
完成当時は赤く塗られていたというビアピンゼル
ビアピンゼルは、建築家のラルフ・シューナーとウルスリナ・シューラ―・ヴィッテによって設計されましたが、特異な内部構造により工事は難航。4年の歳月を費やし、1976年にようやく完成しました。彼らはほかにも、ベルリンのICC(国際会議センター)の設計も手掛けています。ICCのアルミニウムグレーのパネルに覆われたモダンな外観とは対照的に、ビアピンゼルのデザインコンセプトは「通りに立つ木」。現在ビアピンゼルは、1970年代の建築におけるポップアート運動の名残として、歴史的に貴重な建物と位置付けられています。
一方で、ビアピンゼルの歴史は波乱の連続です。内部は3階建てになっていて、もともとレストランとして設計されたものの長続きせず、その後もカフェ、バー、クラブなどが入居しましたが、定着しませんでした。2010年にアートカフェが退去した後は、内部で水漏れなどの被害が見つかり、大規模な改修が必要に。ビアピンゼルの所有者はついに2017年、建物を売りに出しましたが、しばらく買い手が付かずに放置されたままでした。
落書きだらけの建物の入り口。普段は中に入ることはできません
しかし、コロナ・パンデミックの影響が広がるなかで、ビアピンゼルを取り巻く環境は一変します。ビアピンゼルの再建と活性化をうたう不動産会社が2021年半ばに建物を購入し、レストランやイベントスペース、コワーキングスペースとして活用する計画を発表したのです。本格的な改修は2023~2024年に行われる予定ですが、より文化的な施設に生まれ変わるということをアピールするために、2022年5月には若いDJを中心としたクラブイベントが早くも開催されました。
今はまだ改修工事も始まっておらず、近寄ってみるとかなりみすぼらしい外観のビアピンゼル。改修工事後は建物全体が緑色に塗られる予定で、もともとのコンセプトである「木」を思わせる外観に生まれ変わるのだとか。シュロス通りに長年鎮座してきた塔は、新たな文化・商業施設として地域に根付くことができるのでしょうか。ビアピンゼルの数奇な運命は、まだまだ続いていきそうです。