ベルリンに宮崎名物のチキン南蛮を出すお店があると知ったのは、コロナ禍になってしばらくたってからのことでした。ロックダウンの最中、ミッテ地区のローザ・ルクセンブルク広場からほど近いレストラン「いち」で弁当をテイクアウトした私は、自家製タルタルソースによる鶏肉のおいしさに心奪われました。
最近、たまたま共通の知人を通じて店主の長嶺俊一さんと知り合い、お話を伺う機会がありました。両親が共働きということもあり、子どものときから自然と料理に親しみ、興味を持っていたという長嶺さん。中学生の頃から、漠然と海外でお店を開きたいという夢を抱くようになったそうです。調理師学校を卒業後、宮崎市内の料理店で経験を積んでいた頃、ベルリンの日本食レストランの求人を見つけて渡独を決意。数年間勤務した後、「いち」をオープンしたのは2019年7月のことでした。
「自分の生まれ故郷である宮崎を、料理を通じて知っていただきたいと思い、チキン南蛮を看板商品としてお出ししています。やはり自分たちの好きなものを勧めるのがお客様にも伝えやすいですから」。お酒は宮崎の焼酎に加えて、妻の育恵さんが大好きという石川産の日本酒がメニューに並びます。
名物のチキン南蛮
半地下の店内は、10席程度の部屋に加えて、2~5名ほどの個室も用意。夜はコース料理のみで、昼も夜も予約が必要です。この9月に訪れた際は、ベルリンではなかなかお目にかかれない魚をメインとした料理の数々に舌鼓を打ちました。なかでも、イクラやうなぎを使った「季節の茶碗蒸し」のおいしさは忘れられません。
店内の様子
海外で日本食レストランを営んでいて、どういうところに喜びを感じるか、長嶺さんに尋ねてみました。「現地在住の方はもちろん、日本に行ったことのある方が旅行でベルリンを訪れた際に食べに来てくださることもあります。コロナ禍でなかなか日本に行けない昨今ですが、ここで日本を感じながらゆっくりしていただけたら……。もともと家庭的な料理をお出ししたいと思っていたので、海外の方が日本に行ったときに食べたものを思い出したり、懐かしんでいただけたりしたら、それが一番うれしいですね」。
ベルリンでの生活はとても気に入っているという長嶺さんですが、いずれは宮崎に帰ってお店を持ちたいと地元愛を込めて語ります。「いつか宮崎でお店を開けたら、今度は海外に出たい地元の若者たちのために、自分の経験をどんどん伝えたいです。そして、ドイツで出会った方々が今度は宮崎を訪ねてくださることを夢見ています」。
夫婦で「いち」を営む長嶺俊一さんと育恵さん
食の記憶は人と人とを結びつけます。長嶺さんの食を通じた文化交流の今後が楽しみです。
いち:https://ichi-berlin.de