日本語を含め50言語以上に翻訳されているドイツの児童文学の大家、オトフリート・プロイスラー(1923-2013)。昨年10月27日( 金)~ 今年1月7日(日)まで、その生誕100周年を記念した特別展「人には物語が必要だ」(Der Mensch braucht Geschichten)が、ウンター・デン・リンデンの国立図書館で開催されました。
オトフリート・プロイスラーの特別展より。左手は若き日のポートレート、右手は代表作『大どろぼうホッツェンプロッツ』のイラスト
年始、国立図書館所蔵の貴重な資料を展示するKulturwerkで行われたこの特別展を観に行きました。1923年に現在のチェコ・リベレツで生まれたプロイスラーは、戦後バイエルン州で小学校教師として勤務する傍ら、作家活動をスタートします。最初の部屋では、1950年代にドイツで出版された『小さい水の精』(徳間書店)、『小さい魔女』(Gakken)など、今もロングセラーになっている初期の作品が、そのかわいらしい挿絵やオリジナル原稿と共に展示されていました。
日本で最もよく知られるプロイスラー作品といえば、『大どろぼうホッツェンプロッツ』(偕成社、ドイツ語初版1969年)ではないでしょうか。私自身、息子に読み聞かせながら楽しんだ物語で、2022年にはドイツで3度目となる映画化もされています。プロイスラーは子どもたちからのファンレターにも熱心に返事を書いたそうで、展覧会ではそれらの手紙の一部も紹介されていました。
もう一つの代表作『クラバート』の世界をイメージした部屋
また、この作家が生涯敬愛してやまなかったロマン派の詩人アイヒェンドルフに関するコレクションも。プロイスラーが自らの遺品をベルリン国立図書館に寄贈したのは、アイヒェンドルフの遺品もまたこの図書館に収められているからだったそうです。
最後の部屋では、プロイスラーのもう一つの代表作『クラバート』(偕成社、ドイツ語初版1971年)の壮大な世界がベルリン芸術大学の学生の卒業制作の一環としてデザインされていました。ソルブ人の古い伝説を題材に、プロイスラーが10年もの歳月をかけて執筆した作品です。主人公は、黒魔術に身を捧げる14歳の少年。プロイスラー自身、「闇の力に巻き込まれてゆく若者の物語であり、権力の誘惑に触れ、それに巻き込まれていった私と私の世代の物語でもある」と語っており、ナチス時代を生きた筆者の経験も織り込まれています。アニメーション監督の宮崎駿はこの作品を愛読し、映画「千と千尋の神隠し」を制作する際に参考にしたそうです。
書店に行くと、100周年を記念したティーネマン出版による新版をよく見かけます。この機会に、プロイスラーの作品をあらためて読んでみたいと思いました。