今年はドイツ・ロマン派の画家、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(1774-1840)の生誕250年。ベルリン国立博物館の旧ナショナルギャラリーでは、4月19日からフリードリヒの大規模な回顧展「無限の風景」(Unendliche Landschaften)が開催されています。5月頭、時間指定のチケットを入手して観に行ってきました。
開幕後の10日間ですでに7万5000枚のチケットが購入されるなど、大きな反響を集めているこの展覧会。博物館島にある旧ナショナルギャラリーの前には、当日券を求める人たちの行列ができていました。
C.D. フリードリヒの「海辺の修道士」
最初の部屋に入ると、中央に置かれた2枚の大きな風景画が目に飛び込んできます。「海辺の修道士」と「樫の森の中の修道院」。画面に吸い込まれそうな静謐感を持つこれらの作品は、1810年にプロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世によって購入されました。19世紀後半になるとこの画家は人々から忘れ去られてしまいますが、1906年に旧ナショナルギャラリーで開催された「ドイツ世紀展」は、フリードリヒ再発見の大きなきっかけとなります。60点以上の絵画、50点以上の素描を集めた今回の回顧展に、この美術館ほどふさわしい場はないでしょう。
上階の中心にある二つの展示室には、「氷の海」、「リューゲン島の白亜の崖」、「海の月の出」などの傑作が惜しげも無く並び、自然の無限性を前にした人間の孤独とはかなさを漂わせた独自の作風に惹きつけられました。
この回顧展は、フリードリヒの創作過程にも焦点を当てています。数々のデッサンに加え、赤外線の技術を使って「樫の森の中の修道院」の下絵を浮き上がらせるなど、最新の研究成果も紹介されていました。
「樫の森の中の修道院」
喪失感を味わったのは、第二次世界大戦で失われた4枚の作品を原寸大のモノクロ画像で展示した部屋です。「雪の中の修道院墓地」の複製画(作者不明)を前に、さぞや素晴らしかったであろうオリジナルの色合いを想像しました。
最後の部屋には、デュッセルドルフ在住の作家、増山裕之さんのオマージュ作品が展示されていました。増山さんはフリードリヒが描いた絵画の舞台を訪ね、数百の写真からこれらのフォトモンタージュを創作したといいます。フリードリヒの光の世界を今の私たちに結びつける興味深い試みでした。
「無限の風景」展は8月4日まで。その後は、ドレスデンのアルベルティヌムでもフリードリヒの特別展が開催される予定です(8月24日~2025年1月5日)。