1989年まで「ベルリンの壁」が東西を分断していた全長約160kmの道程は、2007年に「壁の道」(Mauerweg)という遊歩道に整備され、かつての壁の跡をたどることができるようになっています。6月末、私もこの壁の道をたどってサイクリングに出掛けました。ボルンホルマー通りからスタートし、いくつもの湖や森を過ぎて、ベルリン北部のホーエン・ノイエンドルフが近付いてきた頃、ふと右手に冷戦時代の国境監視塔が目に入りました。
どこか恐ろしいイメージのある監視塔ですが、何かのパーティーでしょうか、 人々が楽しそうにくつろいでいるのが見えます。思わずその様子に誘われて、中に入ってみました。細く急な階段をつたって塔のてっぺんに上ると、そこには一面緑の海が広がっていました。たまたまそこにいたブランデンブルク州の地方紙「メルキッシェ・アルゲマイネ」の記者ヘルゲ・トライヒェルさんが、現在は「自然保護塔(Naturschutzturm)」と呼ばれるこの塔をめぐる活動について話してくれました。
旧監視塔からの眺め
壁が崩壊した直後の1990年、緩衝地帯だったこの監視塔の周りは、一面砂地の荒涼とした風景が広がっていました。その年、この地域の東西それぞれで環境グループを率いていたヘルガ・ガルドゥーン氏とマリアン・プルツィビラ氏の2人が、目的を失った監視塔を拠点に、共同で環境保護の取り組みを始めます。地域の子どもたちが森と自然について学べる機会を作ろうと、塔の周辺に8万本の苗木を一緒に植えたのもその1つ。また、監視塔を保存することによって、若い世代にドイツ分断の歴史を伝える活動も続けてきました(実際、1964年から80年にかけて、西側へ超えようとした4人の東ドイツの若者がこの近くで射殺されています)。この日は、偶然にも「自然監視塔」の活動20周年の記念祭だったのです。トライヒェルさん自身、ガルドゥーン氏の下で、かつてこの活動に参加した1人でした。
塔の上で出会った地元の少年は、毎週金曜日に参加しているはちみつ作りについて語ってくれました。監視塔の周りには、多種多様な植物や花からなるビオトープが設置され、子どもたちが自然や生態系について学べる場となっています。また現在、この環境団体の事務所になっている塔の内部も、事前に連絡すれば誰でも見学可能です。
最初、塔の上から当たり前のように眺めていた豊かな緑は、この20年の間に人々の努力によって再び育まれたものだったのです。これらの活動が評価され、ガルドゥーンとプルツィビラの両氏は、2010年のベルリン自然保護賞を受賞しました。
旧監視塔の前にたなびく色とりどりの旗。
活動20周年を祝って、地元の子どもたちが描いたもの