東日本大震災から1周年となる3月11日、早稲田大学交響楽団がベルリン・フィルハーモニーで公演を行い、大成功を収めました。
早稲田大学交響楽団は、同大学の学生約300人からなるアマチュア・オーケストラ。1978年にベルリンで行なわれた第5回青少年オーケストラ・コンクールで優勝して以降、定期的に海外公演を行うようになり、世界的にも知られる存在となりました。
今回のベルリン公演は、2月から3月にかけてドイツとオーストリアの12都市をめぐる第13回目の海外公演「ヨーロッパツアー2012」の一貫として行われたもの。ツアーの日程はかなり前から決まっていたそうですが、奇しくもベルリン公演が3月11日に重なったことから、東日本大震災の追悼演奏会となりました。指揮は、長年に渡って同交響楽団の指導を務めてきた田中雅彦氏です。
ベルリン・フィルハーモニーに登場した早稲田大学交響楽団
前半のR. シュトラウスの「アルプス交響曲」は、大規模な楽器編成と高度な演奏技術が要求される、アマチュアが取り上げることは稀な作品。しかし、冒頭の夜明けから荒々しい嵐の場面まで、若い学生たちがオーケストラとしての高い表現力を存分に披露します。約1時間の大曲ですが、低音に重きを置いた豊かなハーモニーが途切れることなく、聴衆からは驚きに満ちた空気が生まれていました。
後半のハイライトを飾ったのは、今回のツアーが初演という、由谷一幾氏の「和太鼓と管弦楽のための協奏曲」。過度にエキゾティズムに偏らない緻密な論理性に貫かれた音楽で、3人の和太鼓奏者とオーケストラとの息を呑むような緊張感に満ちた交感の後、堰を切ったようにブラボーの嵐が起こりました。
アンコールでは「荒城の月」が追悼曲として奏でられ、最後の「ベルリンの風」では口笛が飛び交い、聴衆は総立ちに。ベルリン・フィルが本拠地とするこのホールでもめったに起こらない、幸福な一体感が生まれたのでした。
終演後、楽団員代表の高野和也さん(教育学部4年)に話を聞きました。
「これまで各地の公演で温かい拍手をいただきましたが、ベルリンのお客さんの反応はダントツでした。全く驚いたというのが正直なところで、一生忘れられないと思います」
今回の演奏会は、ベルリン・フィルの映像配信サイト「デジタル・コンサートホール」による生中継が実現。インターネットでこのコンサートを聴いていた東京在住の知人が、後でこんな感想を送ってくれました。
「最後の『ベルリンの風』は、この1年ずっと心の中に半旗を掲げる想いで過ごしてきたその重しを一瞬外してくれたような気がして、改めて音楽の持つ力の大きさに気付かされました」
音楽を専門としない学生から成るアマチュア・オーケストラが、30年以上に渡ってベルリンをはじめ、欧州の檜舞台で公演を続けてきたという例は世界的に見ても稀でしょう。この日、ベルリンの聴衆から送られた温かくも熱狂的な拍手は、毎年少しずつメンバーが入れ替わりつつも、時間を掛けて積み重ねられた彼らとベルリンの友好関係を物語っているようで、3.11から1年ということもあり、一層の重みをもって感じました。