毎年夏、ドイツ連邦大統領の官邸であるベルヴュー宮殿では「Sommerfest(夏のお祭り)」が行われます。これは、ドイツ社会で功績を成し遂げた一般市民を招いての行事ですが、今年は様相が少し変わりました。
9月8日、例年通り招待客を招いてお祭りが行われましたが、翌9日の日曜は「Bürgerfest(市民祭)」として、あらゆる市民に対してベルヴュー宮殿の門が開かれたのです。数年に一度、ベルヴュー宮殿の内部が一般公開されることはありましたが、裏の庭園まで開放して市民対象のお祭りが行われたのは初めてのことだそうです。これほど寛大な振る舞いがなされたのも、今年3月、旧東独出身の人権活動家として連邦大統領に就任したガウク大統領の意向があってのこと。興味を惹かれてこの日の午後、ベルヴュー宮殿に足を運んでみました。
多くの人で賑わったベルヴュー宮殿の庭園
入り口で20分ほど並び、安全検査を受けて中に入ると、家族連れの賑やかな声が聞こえてきました。ベルヴュー宮殿は、フリードリヒ大王の一番下の弟、アウグスト・フェルディナント王子の依頼により、1785年に建てられた宮殿。その王子の胸像を過ぎると、多くの屋台が並び、芝生の上で人々が楽しそうに寛いでいます。庭園は非常に広大で、さすがに草木の手入れもよくなされているなと感心しました。
奥の仮設舞台では、ガウク大統領、ヴァイツゼッカー元大統領、ヘルツォーク元大統領が演壇に上り、「われわれの民主主義――ボン共和国からベルリン共和国へ」というテーマの公開討論が行われているところでした。現職大統領と大統領経験者が3人顔を揃える機会は珍しく、訪れた人も皆、真剣な様子で聞き入っていました。
公開討論でのヴァイツゼッカー元大統領、ガウク大統領、ヘルツォーク元大統領(左から)
現在のユーロ危機に関しては、「EUというプロジェクトに好意を持って寄り添ってくれることを有権者と政治家に望みたい」(ガウク氏)、「かつてなかった危機を前に、今勇気が求められている。何もしないというのは最もいけないこと」(ヘルツォーク氏)など、3者とも幾多の危機を乗り越えて達成された欧州統合を捨ててはならないというメッセージを発しました。ナチス・ドイツ時代、東西冷戦時代を直に生きた政治家ならではの重い言葉だったと思います。
晴天に恵まれたこの日、ベルリン市民だけでなく、観光客も含め、約1万5000人がベルヴュー宮殿を訪れたそうです。ヴルフ前大統領をめぐるスキャンダルで大統領職の威信は大きく損なわれたと言われますが、ガウク大統領主催による今回の市民祭は、多くの人々にとってポジティブな変化の兆候と映ったようです。