ジャパンダイジェスト

権力とモード展 時の権力者たちが求めたもの

権力者が求めるものは古今東西あまり違いがないことはご存じの通り。レジデンツ城内の武器博物館にて「権力とモード」と題し、「選帝侯の権力への道」および「選帝侯の衣裳」の2つの特別展が4月9日からスタートしました。約500年前の衣装が、このたび初めてお目見えとなり、4着の女性用衣装を含む計27着の衣装が入れ替え制で展示されています。

前者は、選帝侯としての地位を獲得したヴィッティン家によって安定化が計られた1400年~1600年代の儀式用武器、肖像画、後者では1550年~1650年代の儀式用の衣装・武器・馬具、選帝侯および家族の肖像画が展示されます。

時を経て色が変化したとはいえ、渋い色味の青や赤などの男性用衣装やドレスは独特の存在感を放っています。例えば、上着やズボンに合わせたマント、小物や武器一式はイエローグリーンに統一されており、それにより明確な存在感を選帝侯に与えていたことが想像に難くありません。熱心なプロテスタント教徒であると同時に領土拡大に野心を燃やした人物として著名な選帝侯モーリッツ(1521-1553)の黒と黄色のストライプのマント(写真参照)は、一際目立つ展示物といえます。イタリア製の布地を使用し、ドレスデンの専属仕立屋にて仕立てられたこのマントは、黄色い部分は絹のダマスク織、黒い部分は絹のベルベット、縁飾りは金糸や銀糸が使用されています。通常の約二倍にもなる肩幅に仕上げられているマントも権力の可視化といえます。イタリアのルネサンス期に流行した、男性器を強調した部位のあるズボンがここでも見られ、権力を誇示する小物として駆り出されているストレートさにおかしさを覚えます。腕にスリットが多数入った服を着たヨーロッパの君主たちの肖像画を見たことはないでしょうか。高価な布地にあえて切り込みを入れる趣向は、現代のスリット入りのデニムに代表されるグランジファッションとの共通点がみられます。建築や絵画の分野でも、古代ギリシアやローマ時代の均衡が取れた様式の再現と応用に邁進しましたが、その直後には均衡を故意に崩し不安定さを求めるマニエリスムの時代を迎えます。両極の趣向を交互に求める精神はジャンル問わず永遠のサイクルといえるでしょう。

選帝侯モーリッツのマント
選帝侯モーリッツのマント。その後方にセットの上着とズボン。そして彼の肖像画

忘れてはいけないのが、名もなきデザイナーおよび職人達のアイデアの豊富さと卓越した技術です。彼らなしには権力の体現は不可能だったでしょう。

しかし、権力の誇示に必要な装置である衣裳や建築は、人間が求める心地良さとは相反するものです。権力者たちは、こぢんまりとした私的な部屋にこもっていた時には何を着ていたのでしょうか。

そしてぜひ、ポスターにも注目。婦人用ドレスの横向きの写真だけが掲載されたポスターですが、驚くほど絵画的で雄弁です。500年も前の妃が袖を通したと想像するとリアイリティが感じられ、わくわくします。

選帝侯ヨハン・ゲオルグ一世妃マグダレーナの儀式用ドレス
ポスターにも使用された、選帝侯ヨハン・ゲオルグ一世妃マグダレーナの儀式用ドレス。肖像画は彼女自身

福田陽子さん福田陽子
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/
 
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