トーマス・ニンテマン氏のサクソホン即興演奏で幕を開けた2か国語朗読会。ドイツ人6割、日本人4割の人々が集まった日本人会館は、期待に包まれていました。11月12日に開かれたこの催しは、作家ヘンリク・シーボルト氏が自らの作品をオリジナルのドイツ語で朗読し、元ハンブルク大学日本語専任講師の宮崎登氏が、それを日本語で朗読するというものでした。
各言語で朗読するヘンリク・シーボルト氏(左)と宮崎登氏
シーボルト氏は、生まれはドイツのボンですが、1歳にならないうちにご両親に連れられて日本へ行き、8歳までを日本で過ごしています。つまり彼にとっての最初の文化は日本だったわけで、現在も日本語を流ちょうに話されます。彼はこれまで別のペンネームで恋愛小説や若者向けの小説を書いてきましたが、今回趣向を変えて、推理小説に挑戦しました。『タケダ刑事とアルトナ殺人事件』の主人公はタイトルの通り、日本人のタケダ刑事。政府の交換プログラムで日本からドイツ・ハンブルクに派遣されたタケダ刑事が、コンビを組むことになったドイツ人女性のクラウディア刑事と事件解決に奮闘する物語です。推理小説としての面白さが第一義的にありますが、シーボルト氏は、タケダ刑事の視点で語られるドイツ文化への気づきと、クラウディア刑事の視点で語られる日本文化の対比も、この作品の大きな柱の一つとして位置づけています。それが可能なのは、両方の文化を知り、しかもそれぞれを客観的に見ることのできる、シーボルト氏ならでは。ドイツに生活する日本人なら、どちらの視点にもうなずける部分があり、共感を持って読み進めることができるでしょう。
アルトナ地区は、ハンブルク内でもトルコ人が多く住む地域で、容疑者としてトルコ人の青年が浮かび上がってきます。「果たしてこの青年は、本当に殺人を犯したのでしょうか? その答えを知りたい方は、どうぞ本をご購入ください」と締めくくり、会場から盛大な拍手を受けました。
参加者の期待感に包まれる朗読会の様子
「日本語に翻訳される予定はありますか?」との質問に、「残念ながら、当面はありません」とのお答え。しかし、トルコ人家庭が重要な役割を果たし、ドイツ内におけるトルコ移民についても書かれているので、既にトルコ語には翻訳されたとのことでした。この作品は、彼の著作の中でも人気が高く、続編の出版も予定されているとのこと。タケダ刑事というキャラクターがドイツで受け入れられ、シリーズとして次々と作品が生まれていくと面白いですね。
ハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?