もうすぐ桜の季節がやって来ます。日本人の心の中で、桜の花は特別な位置を占めています。ドイツで目にする桜は、鞠(まり)のように房になってたっぷりと花をつける、濃いピンクの八重桜が多いようです。これもまた綺麗なのですが、日本人の郷愁を誘う桜は、花のいのちが短く、散り際の美しい、ほんのりピンクではかなげな、ソメイヨシノだと感じるのは、きっと私だけではないでしょう。
アルトナ区役所前公園の桜
ハンブルクは、ドイツのほかの都市と比べても、桜の木を見かけることが多いような気がしますので、その理由を調べてみました。外務省が発行している機関誌「経済と外交」(1971年2月号)に、当時の経済局国際機関第1課の川上俊之氏が「在外勤務思い出の記」コーナーで「ハンブルクの桜まつり」と題して、桜の木の寄贈に関する記事を書いています。
川上氏は1968年当時の谷盛規在ハンブルク総領事が「ハンブルクで一番人目につくアルスター公園に日本の花のシンボルである桜を植えたら、日本人だけでなくハンブルクの人びとにも喜ばれ、しかも日独友好の象徴として生き続けるであろうと思いたたれた」と振り返り「ハンブルクに住む1200人に近い日本人たちが、とかく海外日本人社会が現地社会から孤立しがちなのをおそれて、その生活と企業活動の基盤をおいている町に、感謝の意をこめて3年前に贈った」とあります。時を同じくして「桜まつり」が開催され、アルスター湖上で花火が打ち上げられました。
その後も日独友好関係を増進する目的から、ハンブルクの市内各地に桜の木が次々と植樹されました。一例を挙げると、エルベ川河畔や外アルスター湖と内アルスター湖の間、シュタットパーク内、ハーゲンベック動物園内、アルトナ区役所前公園などです。
バーレンフェルド駅近所、街路樹の桜
今も駐在などでドイツにいらっしゃる人の中には、慣れない外国生活でホームシックになる方もいらっしゃるかと思いますが、さかのぼること約50年前はインターネットもなく、日本の食材も手に入りにくかった時代。 日本的なものを目にする機会はもっと少なかったでしょうから、桜を植え始めた当時の人々はきっと、ハンブルクで見る桜に大いに慰められたことだろうとつくづく感じました。時とともに、中には伐採された木もあると思いますが、現代の私たちは、先人のおかげで、ハンブルクで美しい桜を眺める恩恵にあずかっています。
アルスター湖上での花火大会が好評を得て、現在に至るまで、「桜まつり」は毎年欠かすことのできない行事として、ハンブルク市民に愛され続けています。今年の花火の打ち上げは、外アルスター湖で、5月19日22時半ごろに予定されています。
ハンブルクの桜まつり: www.hamburg.de/kirschbluetenfest-hamburg
ハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?