最低気温が氷点下になるこの季節、つい暖かい家の中にこもりがちですが、帰る家がない人々にとっては、それは夢のような話にほかなりません。ハノーファーには、そのような過酷な状況下に置かれた路上生活者が3000~4000人いると言われています。彼らは路面電車の停留所や建物の陰、ベンチなどで寝泊りしていますが、真冬日が続くと命にかかわるため、時々専用の保護施設に泊まっている人もいます。
彼らに温かい食事を提供しようと、カトリックやプロテスタントなど4つのキリスト教関連団体が協力しながら行っているのが「Suppenküche」と呼ばれるプロジェクト。12月3日~3月16日の日曜日を除く毎日、11時~13時に昼食を出しています。メニューはスープやパスタ、肉やじゃがいも料理など日替わり。パンや果物、クッキー、コーヒー、紅茶なども用意されていて、お代わりも自由です。また、食事をもらうのに特別な許可などは要りません。
私が訪れた日のメニューはカリーヴルストと茹でたジャガイモ、パンでした。食事は開催場所近くの調理施設から調達したものを温めて配膳します。毎日5人のボランティアがテーブルを整えたり、食器を洗うなどの手伝いをしています。全部で35人のボランティアが登録しており、交代で当番に当たります。同プロジェクトの開催は、今年で18回目。ボランティアの中には毎回参加し、すっかり顔なじみの人もいるそうです。
多くのボランティアの協力によって運営されています
場所は、暖房が効いた中心街の教会関連施設。訪れる人の多くは数年来の常連で、和やかに歓談しながら長居する人たちがいれば、1人で来て食べてさっと帰っていく人もいます。路上生活者だけでなく、生活保護受給者などの社会的弱者も訪れ、近年は若い人が増えているとのこと。同プロジェクトでは食事提供のほか、生活相談の受付けや古着の提供も行っています。
ボリューム満点の昼食
主催者によると、今冬は1日に130~150人ほどが訪れ、その数は昨季を上回っているそうです。1日分の食事提供に掛かる費用は約330ユーロ。市からプロジェクト用に2万5000ユーロの補助金が出ているほかは、市民からの寄付で成り立っています。昨今の不況で、寄付を集めるのは一苦労。チラシを配って市民に協力を呼び掛けたり、パン屋から前日売れ残ったパンを無料でもらってきたりと、工夫しています。
お腹が満たされると、心も豊かになるというもの。このプロジェクトは、食事提供を通して生活に困難を抱えている人に、「困っているときはお互い様。頼っていいんだよ」というメッセージを発信しています。これが彼らの精神的な支えになっていることは間違いないでしょう。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、ドイツ語通訳。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。