ジャパンダイジェスト

現代のおとぎ話―クッキーモンスター騒動

ハノーファーの老舗クッキーメーカー、バールゼン社をご存知ですか? この会社のシンボルをめぐって先頃、世界中を騒がせる事件が起こりました。事の始まりは、バールゼン社の社屋に掲げられていた看板から、同社のシンボルとなっている金色の「ライプニッツ」のクッキーの模型が盗まれたこと。無くなったのは1月半ばだそうですが、日付ははっきりしません。そして1月末、米教育番組「セサミストリート」のキャラクター、クッキーモンスターが看板をかじる写真とともに、同社宛に「小児病院にクッキーを寄贈し、1000ユーロを動物保護施設に寄付するなら看板を返すよ」と書かれた手紙が届いたのです。そこには、「ミルクチョコレートのクッキーを寄贈すること」との指示もありました。

ボリューム満点の昼食
「ライプニッツ」クッキー模型がなくなった
バールゼン社の看板

これを受け、バールゼン社は市内52の福祉施設に5万2000箱のクッキーを贈ることを約束。犯人の要求に屈したのではなく、自主的に寄贈するというスタンスです。ちなみに52という数字は、このクッキーの縁に入っている切り込みの数と一致します。

そして2月5日の朝、ハノーファー・ライプニッツ大学の馬の像の胸元に、赤いリボン付きのクッキーの看板が掛かっているのが発見されました。ライプニッツ大学は私の母校ですが、大学で働く友人によると、この日は学内中、この話題で持ちきりだったとか。何せ「ライプニッツ」の看板が、ライプニッツ大学に2月5日に返されたのですからね。ドイツ語で日付を書くと日月の順になるため、「5.2.」。つまりこちらも「52」なのでした!

市内のディスコでクッキーの看板を持った人が目撃されたり、8日のカーニバルのパレードでクッキーモンスターが登場するなど、ハノーファー中がクッキーモンスター騒動で盛り上がりました。犯人は学生ではないかという噂について、教員の1人は「うちの大学には賢い人が多いからねえ……」とコメント。犯人に、「ぜひ我が社に入って!」と勧誘する広告代理店まで現れました。ある雑誌によると、今回のバールゼン社のメディアへの露出を宣伝費に換算すると、170万ユーロにも上るとか。同社の自作自演では? という説もありますが、1889年創設の老舗メーカーがこれほど斬新なことはしないだろうとの見方が有力です。

ボランティアの方々
カーニバルの山車に登場したクッキーモンスター

中には、「これは現代のメルヘンだ」と言う人も。ハノーファーは世界的に有名になり、バールゼン社は十分に宣伝を行い、子どもたちはクッキーをもらえる。損害を被った人は誰もいない。大胆な愉快犯の行動を楽しんだ人も、少なくなかったでしょう。

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、ドイツ語通訳。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。
 
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