ジャパンダイジェスト

エネルギールートを自転車で走る

ハノーファーは気候保護先進都市。同市と周辺の町村は2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を1990年比95%削減し、エネルギー消費量を半減させることを目標としています。これは、連邦環境省のプロジェクト「マスタープラン:100%気候保護」に即した取り組みで、全国19の地方自治体が連邦政府の補助金を受けて、このパイロットプロジェクトに取り組んでいます。

CO2排出量を減らすため、市や周辺の町村は市民に自転車の使用を促進し、様々なサイクリングコースを提案しています。その1つが「エネルギールート」。水力や風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギー発電所を巡るもので、ハノーファーから近郊の町村を通って西と南へ走る2つのルートがあり、それぞれ約37km。見学のポイントは各8カ所で、専用の案内冊子が用意されています。

エネルギールートの冊子
エネルギールートの冊子

冊子には、各発電所の年間の発電量とそれに伴うCO2排出量、そこから導き出される削減量が明記されています。例えば王宮庭園の近くにある水力発電所ヘレンハウゼンは、2000年のハノーファー万博(EXPO)プロジェクトの一環として建設され、1999年よりハノーファー電力公社が運営してます。容量は940kW、年間330万kWhを発電しており、これは2人暮らしの家庭970世帯分の年間消費量に相当します。これにより、毎年2000トンのCO2削減に寄与しています。また、風力発電装置の設置場所に影の形の遊歩道が作られているところもあります。これは夏至の日の影を象ったもので、近くで見ると圧巻! 農地にあるため車両通行は禁止されており、自転車しか入れません。また、市庁舎裏にあるマッシュ湖のソーラーボートはガラス張りで、開放的な雰囲気。天井部分に張られているソーラーモジュールで発電しています。エンジン音がなく、湖面を滑るように走るため、快適です。

ソーラーボート
50分で湖を一周するソーラーボート

ハノーファーの周辺一帯は標高差がほとんどないため、サイクリングに適しています。通常のサイクリングコースとは一風異なり、景色を楽しみつつ、地元の再生可能エネルギーに対する知識を得ることができます。距離が長いため、一部列車を使って移動するのもお勧めです。

もともとハノーファー周辺は自転車道が充実した地域です。市街地では、自転車道は分かりやすく赤で塗られています。市内の自転車利用率は現在約15%ですが、市は2025年にこれを25%まで引き上げることを目指しています。通常なら車が通る道を自転車優先道路と定め、自転車が真ん中を走れるようにしている道もあるほか、駐輪場を整備したり、レンタル自転車も増やしています。

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。

 
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