1989年東京生まれのアーティスト持田敦子さんは、大学で日本画を学ぶ頃から枠にとらわれない作品をつくることに魅せられていった、と言います。その後、インスタレーションやパブリックアートを主とする東京藝術大学の大学院で先端芸術表現学科を修了。ドイツに渡り、ヴァイマルにあるバウハウス大学で学びました。2018年に学業を終える頃からは、日本国内各地での展示やプロジェクトへの参加に加えて、ハバナやシンガポールでも作品を制作した経験もあります。
アーティスト持田敦子さん
2019年の1月から3月は、ライプツィヒのインターナショナル・アートプログラム「PILOTENKUECHE(ピローテンキュッヒェ)」に参加しています。滞在期間の半分である1カ月半が過ぎ、2月16日から23日まで参加アーティスト16名による展示「Unfinished Hase (未完成のうさぎ)」が行われました。
敦子さんは「Floating room1 (浮遊する部屋1)」と名付けたインスタレーションを展示。本人によると「2018年に参加した、宮城県・網地島でのリサーチトリップにて、持ち主が判別しないため取り壊すこともできず放置されている家々からインスピレーションを得て製作した、『地に足のつかない空間 / 空間の幽霊』のスタディとしての作品です。メインのマテリアルとして、もともと展示室に残されていた、古いピアノを使用しています」とのこと。東日本大震災後、未だに修復も解体もされずに残されている建物たちに非常に感情を揺すぶられ、何か作品として形に残そうと思ったそうです。そこには何か建築の魂のようなものが残骸としてあり、重たいものを「浮かせる」ことでその魂を表そうという試みです。
約400kgの浮いたピアノ
会場内の中央に位置するインスタレーション
彼女のコンセプトは下記のように続きます。「そこにいた人間が去り、長いこと取り残された空間は、繰り返される相続の中で、誰のものともわからなくなることがある。空間は宙に浮く。幽霊のように、地に足をつくことができず、見慣れたのっぺらぼうの顔を通りに向けながら」。
絵画や写真と異なり、規模の大きなインスタレーションはそれなりの労働とお金が必要です。展示期間が終わると別の場所に保存できる稀な場合を除いて、大抵は片付けて記録写真だけが残ります。見知らぬ土地で、しかも短期間でインスタレーション作品を成立させるには、それこそアーティストの才能にかかっていると思います。敦子さんの今後の活躍が、非常に楽しみです。
持田敦子さんのウェブサイト:atsukomochida.jp
福岡県出身。日独家族2児の母。「働く環境」を良くする設計を専門とする建築家。2011年に空き家再生社会文化拠点ライプツィヒ「日本の家」立ち上げ、18年まで共同代表。15年より元消防署を活用した複合施設 Ostwache共同代表。
www.djh-leipzig.de