不動産価格が年々高騰するミュンヘンは、どちらかというと、サブカルチャーからはほど遠い「高級感のある街」というイメージが定着しているかもしれません。確かに、ミュンヘンで成功するにはその土地柄ゆえ相当な忍耐が必要で、ドイツ語の言い回しで「Hartes Pflaster」(直訳で「硬い舗装」、新規参入が難しいこと)ともいわれます。しかし、実はミュンヘンにもアートやクラブカルチャーの拠点が多く存在していることをご存知ですか? 今回は、ミュンヘンに新たな風を吹き込もうとする三兄弟と、彼らがミュンヘンに築くサブカルチャーをご紹介したいと思います。
アルテ・ウッティングでは、まるで空中に浮かぶ船に乗っているような感覚に包まれます
例えば、遊び心満載の「アルテ・ウッティング」(AlteUtting)。重さ144トンもの回遊船をアマー湖から運び込み、ミュンヘンの中心部にある今は使われていない鉄道橋の上に設置した、イベント会場兼レストランです。この大規模プロジェクトを2018年に実装したのは、1990年生まれのダニエル・ハーンさん。
彼の勢いはそれだけに止まりません。2015年には、アルテ・ウッティングのすぐそばにある鉄道廃墟を改装。テクノクラブ「バーンウェアター・ティール」(Bahnwärter Thiel)をオープンしています。この名前は、ドイツの作家ゲルハルト・ハウプトマンの短編小説の『踏切番ティール』に由来。グラフィックアートに覆われた外壁が特徴的で、コロナ禍の今は中庭を活用し、ビアガーデンとして運営を続けています。
アルテ・ウッティングの完成を喜ぶハーン三兄弟
次男のユリアンさんも、カフェをいくつか立ち上げています。彼は昨年8月に、「カフェ・ガンス・ウォアンダース」(Café Gans Woanders)をオープン。まるで魔女の家のような建物の中には、広々とした二階建ての木造テラスがあり、最近ではコロナ禍で先の見えない音楽家を支援するため、小さな野外コンサートなども実施されています。そして、ウェストパーク内の小池沿いにある、ゆったりと時間が流れる「カフェ・ガンス・アム・ヴァッサー」(Café Gans amWasser)は、公園の散歩がてら立ち寄るのにぴったり。さらに三男のラウリンさんは、太陽電池や電気自動車の領域で活躍するスタートアップ「Sono Motors」の社長を務めています。
ユリアンさんが立ち上げた居心地の良いカフェ
ミュンヘンの土地不足は依然として課題で、残念ながら多くの拠点は数年限りの契約だそう。しかし、ここに挙げたのはほんの一例で、ミュンヘンにもサブカルチャーが発展する余地は十分にあります。人が住みにくい場所や使えなくなった施設を再利用するという、柔軟かつ斬新な発想やアプローチによって実現しているように感じます。
街を盛り上げる重要な役割を果たす飲食店やイベント会場は、パンデミック下で大変厳しい状況にあります。そんななか、若い才能がチャレンジをしている姿は心強く、一刻も早く平常な日常が戻ることを願うばかりです。
ミュンヘン生まれ、10歳ごろから京都育ち。大学卒業後、再びミュンヘンに戻る。もともと異文化教育や日独間のコミュニケーションに興味があり、ドイツのPR会社Storymakerに就職。J-BIG編集部として、在独日系企業の情報発信も行っている。 www.j-big.de