ジャパンダイジェスト

市民に愛された旧違法建築「東西平和教会」

「小さな万博」のようなインターナショナルな雰囲気が漂うTollwood祭りが、6~7月までコロナ禍以来久しぶりに開催されました。さまざまな国をテーマとしたテントが並び、世界各地のアートや音楽、パフォーマンス、郷土料理などが楽しめるこの祭典は、通常は夏と冬の年2回行われています。夏の会場はオリンピアパーク。今年50周年を迎えたミュンヘンオリンピックの会場であり、現在は広大な市民公園となっている場所です。今回は、この祭典を訪れている最中に偶然発見した小さな教会についてレポートします。

緑豊かな美しい庭園を眺めてホッと一息緑豊かな美しい庭園を眺めてホッと一息

この日は30度前後の真夏日。ビールを片手に各国ブースを回ろうと意気込んでいましたが、至るところに屋台があったり、高さ15メートルの綱渡りのパフォーマンスが繰り広げられていたりと、誘惑の多さになかなか前へ進めません。また、会場内のライブハウスで俳優ジョニー· デップの有料コンサートが予定されていたからか、とにかくにぎやかでした。

ふと立ち止まったモロッコのブースの裏に小道があったので通り抜けると、東西平和教会(Ost-West-Friedenskirche)という小さな教会に行き着きました。柵の向こうには涼しく穏やかな庭園が広がっており、炎天下のTollwoodの会場の暑苦しさを忘れて、時間がゆっくり流れているような不思議な感覚に。

銀色に輝く教会の天井はチョコレートの包み紙からできています銀色に輝く教会の天井はチョコレートの包み紙からできています

東西平和教会は、ロシア出身のフェータヒェン· ティモフェイ(Väterchen Timofej)によって設立されました。「フェータヒェン」とはドイツ語で「お父さん」の指小辞で、彼の愛称でした。彼は第二次世界大戦中、聖母マリアから「西部で教会を建てなさい」というお告げを受けたことをきっかけに旅に出て、その道中のウィーンで出会った妻ナターシャと一緒に、1952年にミュンヘンへ移住したのです。そして戦争廃材やがれきを使って自力で小さな家と教会を建て、庭には野菜や果物を育て、ひっそり静かに暮らしていました。

現在は敷地の一部が博物館となっている東西平和教会 現在は敷地の一部が博物館となっている東西平和教会

ところがミュンヘン市が1972年の五輪招致に成功し、競技会場の建設計画が進むと、現在オリンピアパークが位置する市内北部が会場候補地に。建設許可を取得していなかったティモフェイは、撤去を迫られました。しかし彼は一向に譲らず、ミュンヘン市のみならずバイエルン州やドイツ政府、そしてオリンピック委員会にも抗議をしたため、建設計画は難航します。

一方でティモフェイの家は市民やメディアを魅了し、彼も「ミュンヘンの隠者」として愛される存在となりました。そして、多くの人々が協力した結果、建設予定だった馬術競技場の候補地が移動されることになったのです。ティモフェイは、市長のお墨付きを得て、後に合法化されたこの楽園の中で110歳になるまで穏やかに暮らしました。現在、Tollwoodなどの祭典もそれを囲む形で開催されています。

Ost-West-Friedenskirche 記念サイト: www.ost-west-friedenskirche.de

大浦 詩織カミラ(おおうら しおり)
ミュンヘン生まれ、10歳ごろから京都育ち。大学卒業後、再びミュンヘンに戻る。もともと異文化教育や日独間のコミュニケーションに興味があり、ドイツのPR会社Storymakerに就職。J-BIG編集部として、在独日系企業の情報発信も行っている。 www.j-big.de

 
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