以前から、前を通るたびに「すてきな建物だな。いつか中に入ってみたい」と思っていたプリンツレゲンテン劇場。バイエルン放送合唱団のコンサートがこのプリンツレゲンテン劇場で開催されると聞いて、演奏会の内容も知らずに出かけてみました。
プリンツレゲンテン劇場の外観
まずは19時からの30分間、劇場内のGart ensaal (庭のホール)にて、コンサートの内容説明から始まります。指揮者はこの日がミュンヘン・デビューとなった、ラトビア出身のクリスタ・アウデレ。彼女はまだ20代のチャーミングな女性で、あふれる情熱とユーモアをもって、作品の解説をしてくれました。この日のテーマは「永遠」。ブラームス、メンデルスゾーンなどのロマン派に始まり、現代の作品まで、永遠に関するア・カペラ(無伴奏)の曲がリストアップされていました。
豪華なロビー
そして、20時の開演に向けて、いよいよ会場へ。この劇場は、調べてみると、1901年にワーグナーのバイロイト祝祭劇場に対置するかたちで建設されたとのこと。アール・ヌーボーと古典が融合したスタイルで、会場内もため息が出るほど美しい装飾が施されています。古い劇場だと馬てい型が多く、「豪華だけれども舞台が見えない」席が多いのですが、ここは映画館のようになだらかなスロープに座席が設置されています。ボックス席は後ろだけで、どの席からでも舞台がよく見える造りになっているのです。会場内は撮影禁止とのことで、皆様にこの美しさをお見せできないのが残念です。
コンサートに先だって説明会が行われた庭のホール
プログラムが始まると、その息の合った演奏に、最初から圧倒されました。一人ひとり実力ある歌手が集まっているので、ピアニシモからフォルティシモの幅が大きく、息遣いによる勢いがうねりのように満ち欠けしています。なかでも圧巻だったのは、現代音楽の作曲家ヴィヴァンコスの「永遠」。柔らかな音に乗せて、どんどん不協和音が重なっていきます。それが多くの倍音を生み出して、まさに別世界に迷い込んだような、永遠の世界を垣間見たような雰囲気になりました。不協和音なのに、心地良さと安定感もあって、何ともいえない不思議な感覚でした。無伴奏で、あの不協和音を維持することのできる合唱団の実力も素晴らしい!あとから演奏した方に話を聞くと、「1拍も休みがなくて、大変。歌っている方にしてみると『もう早く殺してくれ!』という感覚だった」とのこと。
1日だけのコンサートのために、こんなに密度の濃いプログラムを組んでくれるのですね。聴衆はみな日常を離れ、「永遠」に思いをはせる、ぜいたくな時間を過ごしたに違いありません。
イエス・キリストに出会って、声楽専攻から牧師に転身。2022年よりミュンヘン日本語キリスト教会牧師。今でも少女マンガ、オペラ、ダンスは大好きです。 www.muc-japan-christ.com/