イザール川の中州に建つドイツ博物館(Deutsches Museum)は、科学技術史を体験できる、この分野では世界最大規模の博物館です。常設展をすべて鑑賞するだけでも数日掛かると言われるほど大きな博物館ですが、建物内の広いスペースを利用し、様々なテーマを扱う特別展も頻繁に開催されています。今回は「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」(8月3日まで)と昨年11月に新設された「海洋研究」展示をご紹介しましょう。
15世紀に活躍したレオナルド・ダ・ヴィンチは多くの分野で顕著な業績を残し、「万能人」と称されました。今回の展覧会では、彼の業績を伝えるスケッチや設計図(複製)、それらを基にした復元模型などが展示されています。「体験型博物館」であるドイツ博物館らしく、マルチメディアを多用するなど、展示方法も工夫され、ダ・ヴィンチの業績と当時の社会情勢および文化的なマイルストーンがリンクされた年表を表示するタッチスクリーン・パネルは、情報量が実に豊富です。また、間違い探しのコーナーや、可動式の鳥の模型と映像を比べて同じポーズを取らせるコーナーがあるなど、大人も子どもも楽しめるようになっています。展示会場の最終コーナーにあるのは、魚やミツバチから着想を得た現代のロボット開発や素材構造の研究例。自然を観察し、科学技術の発展に取り入れたダ・ヴィンチの発想は、現代の研究にも受け継がれているのですね。
これを読めば、レオナルドの生涯がすべて分かる
さて、次にご紹介するのは「海洋研究」。ここでは海流や深海の生態系、海底の地質構造を理解するための科学者の研究活動が紹介されています。センサーもロボットもなかった時代、もちろん海底作業はすべて人の手で行われていました。船舶の安全運航のために、ロープを使って計測した深度図などは、制作にどれほどの時間を要したことでしょう。また、海中を探検するための初期の潜水具は金属製の大掛かりなもので、それを身に着けて水中に潜った研究者の覚悟と、そのサポート部隊の工夫に驚かされます。ほかにも、深海用潜水艦や海洋研究のための船舶、水深1万916メートルに到達した深海探査艇(模型)など、とても見応えのある展示内容でした。地球の表面の70%を占める海ですが、私たちが知っていることはごく限られているのだと実感するとともに、未知の世界に挑戦し続けてきた研究者たちの意欲と勇気に頭が下がる思いでした。
ようこそ海洋研究の世界へ
ドイツ博物館では、子どもも楽しめるガイドツアーや講演が多く開催されています。ぜひ、驚きに満ちた科学の世界を体験してみてください。
www.deutsches-museum.de
2002年からミュンヘン近郊の小さな町ヴェルトに在住。会社員を経て独立し、現在はフリーランスとして活動中。家族は夫と2匹の猫で、最近の趣味はヨガとゴルフ、フルート。