世界遺産の街レーゲンスブルクの北西約25㎞に、カルミュンツ(Kallmünz)という名の小さな村があります。鉄道駅がなく、バスの本数も少ないようなのでアクセスは不便ですが、バイエルン有数の美しい風景を持つ村だと聞いたため、ある秋晴れの日に出かけてみました。
絵画的美しさを持つカルミュンツの村
ミュンヘンからは車で約2時間。フィルス川(Vils)とナープ川(Naab)の合流地点に位置し、その美しい佇まいから「ナープ川の真珠」とも称されています。フレンキシェ・アルプ(Fränkische Alb)の端にあたるため、周囲の緑豊かでなだらかな丘が連なる美しい景色が印象的です。そんな穏やかな風景のなかで、カルミュンツの川沿いにそびえ立つ峻厳なむき出しの岩肌は強いコントラストを与えています。岩山の上には13世紀半ばまで歴史を遡ることができる城砦の遺跡が見え、ここが当時、防衛の要所であったことを今に伝えているのです。この城砦は16世紀から17世紀にかけての戦乱の時代に何度か焼かれ、今は壁と塔の一部しか残っていませんが、そこから見下ろすカルミュンツの街とその周囲の風景は一見の価値があります。遺跡にたどり着くには足元に注意が必要なちょっとワイルドな山道を登らなければいけませんが、かえってそれが昔の面影を偲ぶ一助になっているようにも感じます。なお、カルミュンツからレーゲンスブルクに至るナープ川沿いにはほかにも城の遺跡が点在しているようなので、それらを訪れてみるのも一興かもしれません。
中世の城砦遺跡から、村を見下ろす
岩山の麓に広がる村では、中世の名残を感じさせる小道沿いにある、張り出した岩肌の下に建てられた家などに驚かされます。もし落石があったら……とちょっと心配になるほどです。家屋はカラフルに美しく装飾され、川にかかる石造りの橋や水車も、それぞれに趣をかもしだしています。豊かな水に囲まれた土地は独特の潤いと落ち着きがあり、散策しても疲れることなく、かえって癒されるような効果があります。この美しい小さな村は芸術家にも愛され、20世紀初頭には高名な画家のワシリー・カンディンスキーとそのパートナーであるガブリエル・ミュンターをはじめ、約40人の画家たちが滞在していたそうです。その流れは今も受け継がれているようで、あちこちに画家のアトリエや画廊、そして村の歴史などを表しているブロンズ像が飾られているのを見ることができました。
さて、カルミュンツから北に約40Kmほど行くと、シャルロッテンホーフ湖水地帯(Charlottenhofer Weihergebiet)が広がっています。Schwandorf(白鳥村)という名前に惹かれて足を延ばしてみると、多くの野生の白鳥や水鳥たちが集っているのを眺めることができました。まさに「白鳥の湖」という感じです。ここは自然保護地域に指定されていて、植物などの多様な生態系を楽しむこともできるようだったので、またの機会に改めて訪れてみたいと思います。
シャルロッテンホーフ湖水地帯には白鳥が集う
日独の自動車部品会社での営業・マーケティング部門勤務を経て、現在はフリーランスで 通訳・市場調査を行う。サイエンスマーケティング修士。夫と猫3匹と暮らし、ヨガを楽しむ。 2002年からミュンヘン近郊の小さな町ヴェルトに在住。