帰宅が夜10時過ぎになることが多く、週末の出張が重なると疲れが取れません。夏に十分な休暇が取れなかったせいもあってか、最近は仕事の作業能率が上がらないことも気になります。
Point
- 海外駐在員は大なり小なりのストレス下に
- 配偶者はときに同等以上のストレスも
- 効率の良い仕事は十分な睡眠から
- 食べ過ぎに注意し、適度なスポーツを
- 休日、休暇は身体を休ませましょう
- 職業性ストレスチェック調査票の活用も
ストレスって何?
● ストレスの意味
神経を使う業務、長時間の勤務、複雑な人間関係で生じる身体的・精神的な負荷を指すことが多い言葉です。医学的には精神的な重荷のほか、怪我、寒さ、暑さ、病気など、生体に加わる大きな刺激すべてをストレス(ドイツ語でDruck、Anspannung)と呼びます。
● ストレス反応は合目的
ストレスによる身体の反応(ストレス反応=Stressreaktionen)は、身体が緊急事態に対処するためのメカニズムです。外敵に出くわしたときに交感神経系が緊張し、脈拍数や呼吸数が増え、筋肉の血流量も増やして、闘ったり逃げたりするのに役立ちます。また、脳の視床下部と脳下垂体を介して副腎皮質ホルモンの分泌が増え、身体危機に対応します。
● ストレス性健康障害はアラーム
強いストレス刺激が続くと、多様な身体症状が現れます。大人では胃の痛み、下痢、疲れ、吐き気、頭痛、肩こり、じん麻疹、脱毛など。女性では生理不順や無月経、男性では早期の男性更年期障害の起因にもなります。
職場でのストレス
● 駐在員のストレス
海外駐在員は一般に有能・優秀で、仕事のモチベーションも高い人たちです。しかし、異文化下での生活、外国語による営業、頻繁の出張、本社への連絡、ドイツ育ちの同僚への対応(後述)のような日本国内とは異なるストレスにさらされています。これに残業、休日出勤、長時間会議、本社からの出張者へのアテンドなどの業務負荷が加わります。また、現地採用の日本人の場合にも同様のストレスや業務負荷を感じることがあります。
● 本社と現地の板挟み
駐在所(海外支店)レベルでの裁量権が限られている場合には、本社への報告、判断を仰ぐといった内部的な仕事も少なくありません。ドイツの事情を十分理解していない日本側と現地の板挟みになってしまうことも、稀ではありません(海外邦人医療基金JOMFより)。
● 「海外小規模駐在所症候群」
外務省のメンタルヘルス対策上部専門官の鈴木満氏の著書『異国でこころを病んだとき』(弘文堂)で用いている言葉です。「日系駐在所の職場では日本的な上下関係があり、職場外では現地の行動様式に合わせるという二重規範がみられる。小さな日本人社会では種々の感情も倍増、逃げ場のない濃厚な人間関係のなかでちょっとした気持ちの行き違いがハラスメントの遠因になる」と指摘しています(同著より改変引用)。一般に日本にいたときに比べ職務範囲は広くなります。
● ドイツ育ちの同僚は
ドイツ在住の熊谷徹氏は『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人』(SB クリエイティブ)という分かりやすいタイトルの本で、ドイツ企業では部下に長時間残業させると上司は罰金を払わなくてはならないと記しています(実際に法律あり)。幼稚園の頃から日本とは異なる規範とQOL(生活の質)への価値観を学んで育った現地採用のスタッフにとって、連日の残業は理解しにくいものがあります。日本の美徳である「おもてなし」「丁寧さ」のサービス精神は「無意味」と捉えられることも。
主婦(夫)業のストレス
● ドイツ主婦(夫)業の給料は?
仮にドイツで掃除、選択、料理、育児、買い物、その他の雑務を人を雇ったとしたらという観点から主婦(夫)の月給額を計算すると、月5300(女性雑誌「FH-Berlin」より)〜月5800ユーロ(2016年のRTL テレビ番組より)の給料に相当するようです。
● 渡独したその日から即仕事
右も左も分からないドイツに着いてすぐに、子どもの食事準備などの家事が主婦(夫)の当たり前の仕事のようにはじまります。しかも、主婦(夫)の家事には配偶者と家事分担をしない限り、週末や休日もなく続きます。
● キャリアを中断してドイツへ
日本で働いていた頃はそれなりの立場にあった自分が、ドイツで暮らし始めると電車のドアの開け方も分からず、イライラするなどということも多々あります。さらにドイツに来る直前まで仕事に従事していた人にとっては、職場での活発な会話や社会生活がなくなり、生活にポカンと穴があいたような気分に陥ってしまうことがあります。
● 全く話をしない日も
日本人社会との接点が乏しい地域では、会話は家族とだけということもあります。子どもがいない家庭でパートナーが出張の日は、スーパーでの買い物時に店員に「グーテンターク」と挨拶するのがその日唯一の会話ということにもなりかねず、相当な心理的ストレスになります。
職業性ストレスのチェック
● 職業性ストレス調査表とは
メンタルヘルス不調の未然防止につなげるため、平成27年に日本の労働安全衛生法が改正され、一定以上の事業場でのストレスチェックが義務付けられました。ストレスが大きいと判断された場合は専門家と相談することができます。
● 調査表の内容
57項目(簡易版は23項目)の質問事項があり、内容的に次の3つの構成からなっています。❶職場における心理的な負担の原因に関する項目 ❷心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目 ❸職場におけるほかの労働者による支援に関する項目。
● 海外勤務者のストレスチェックは?
海外の現地法人に雇用されている場合は、日本の法律が適用されないので、ストレスチェックの実施義務はありません。日本の企業から現地に長期出張している社員の場合は、ストレスチェックを実施する必要があります(厚生労働省の「こころの耳」より)。
● ドイツでも受けられますか?
海外赴任者でも自身の職業性ストレス状態の把握のために利用することができます。ドイツの日系医療機関で行った場合は記載事項と評価は受診者個人に属し、本人の文書による承諾なしにドイツの勤務先や日本の本社に開示されることはありません。
ストレス軽減のヒント
・ なぜ残業が多いか、考えてみる
・ 本音で話ができる相手をつくる
・ 十分な睡眠時間を確保する
・ スポーツで気分転換をはかる
・ ドイツの文化(日本との違い)を楽しむ
・ 山の見える南ドイツを旅してみる
・ 邦人社会との適切な距離を保つ
・ 家庭を大切に(家事分担も)
・ 不満を叫んでみる
・ 少しドイツ語でも話してみる
・ 習慣の違いは分からないのが当然と考える
・ 同僚、仲間と助け合う
・ 同僚の変調には温かいサポートを
● 職場での工夫
長時間業務と睡眠不足により作業効率が落ちます。また、過重労働による疲労の蓄積により脳・心臓疾患のリスクも増えます。なぜ残業時間が多いか、なぜ長時間業務が必要なのか、事業所全体で一度再検討し、優先順位の低い業務から改善していくのも一手です。
● 帰宅後の工夫
帰宅したら(あるいは週末は)仕事をしない、休日に仕事のメールを読まないといった自分なりのルールを作り、翌日の効率良い仕事のための十分な睡眠時間を確保しましょう。
● 日常生活のなかで
ドイツに来たら毎日が分からないこと、知らないことがたくさんあり、ドイツ語が分からないのも当然です。恥をかきながらの新しいチャレンジをエンジョイする気持ちでいる方が楽です。主婦(夫)が1日24時間、週7日の家事と育児で追い込まれていると感じたら、パートナーに「仕事で忙しい」と言われようと、一度週末の仕事分担について真剣に話し合ってみましょう。
● 実家からの訪問客
日本の両親のドイツ訪問はうれしいものです。しかし、主婦(夫)だけに滞在中の世話のすべてを任せるのは負担が大き過ぎます。皆が楽しめる滞在のため、仕事分担は必須です。