3月4日、早稲田大学交響楽団がベルリン・フィルハーモニーに客演し、大きな成功を収めました。同交響楽団は早稲田大学の現役学生から成るアマチュアの楽団ながら、高い実力を持つことで知られ、1978年にはカラヤン財団主催の青少年オーケストラ大会で優勝した経験もあります。今回のベルリン公演は、ドイツとオーストリアの12都市を巡る「ヨーロッパツアー2018」の一環として実現したもの。若き音楽家たちは、フランクフルト(アルテ・オーパー)、ウィーン(楽友協会)、ハンブルク(エルプ・フィルハーモニー)など欧州を代表するホールで演奏を重ねた後、長年この楽団を指導してきた田中雅彦氏の指揮のもと、ベルリンでの大舞台に臨みました。
フィルハーモニーに客演した田中雅彦指揮の早稲田大学交響楽団
私自身、かつてこの楽団に所属していたご縁で、本番前のプレトークにて元ベルリン・フィルのチェリスト、ゲッツ・トイチュさんと対談する機会に恵まれました。「上手なプロや下手なアマチュアの楽団はいくらでもある。でも、『卓越したアマチュア』というのは極めて稀だ。ワセダのオーケストラは毎年少しずつメンバーが変わるのに、一体なぜ毎回これほど見事な演奏ができるのか?」というトイチュさんの質問に対して、彼らが日々どういう練習をしているのか、そして表現の一体性を求める楽団の伝統などを自分の経験の中でお話ししました。
そして本番の演奏会。前半ではR・シュトラウスの「家庭交響曲」という約45分の大曲を取り上げましたが、複雑な楽譜の細部に至るまで表現がよく練れていること。そしてオーケストラ全体の見事な調和に息を呑みました。チャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」で爛熟した響きを聴かせた後、石井眞木作曲の日本太鼓とオーケストラのための「モノプリズム」では、著名な和太鼓奏者の林英哲氏と英哲風雲の会が共演。聴こえるか聴こえないかという音量で始まる和太鼓が、オーケストラと格闘を繰り返しながら、やがてホールを揺り動かす連打を刻み、まさにベルリンの聴衆を圧倒したのでした。
終演後のカーテンコールから
演奏会がスタンディングオベーションで幕を閉じた後、聴きに来てくれた何人もの知人が決して社交辞令ではないと思わせる興奮や感動の声を届けてくれました。彼らが普段このホールで聴くのはベルリン・フィルを始めとする一流のプロたちによる演奏。個々の実力では遥かに及ばない日本のアマチュアの音楽家たちが、オーケストラという形態を通じて不断の努力とともに築いてきた何かが、ベルリンの聴衆の心に確かに届いたということなのか……。音楽の持つ不思議な力に改めて感じ入りました。