3月8日、早稲田大学交響楽団がベルリン・フィルハーモニーに客演し、センセーショナルともいえる成功を収めました。
同楽団は、音楽を専門としない早稲田大学の学生のみで構成されているにもかかわらず、1978年にベルリンで行われた青少年オーケストラ・コンクールで優勝して以来、国際的な経験を積み重ねてきました。今回のベルリン公演は、ドイツ、オーストリア、フランスの13都市を巡る第14回海外公演「ヨーロッパツアー2015」の一環として行われたものです。
公演の冒頭では、先頃亡くなったワイツゼッカー元大統領のために、ダヴィッド作曲のトロンボーンと管弦楽のための小協奏曲から「葬送行進曲」が急きょ追悼演奏されました。ワイツゼッカー氏は2005年に早稲田大学の名誉博士号を授与されており、過去3回の同楽団のベルリン公演の客席にもその姿がありました。
ベルリン・フィルハーモニーに登場した早稲田大学交響楽団 © Waseda Symphony Orchestra
「我々に多大な支援をしてくださったカラヤン氏は『音楽は政治的な対立を超え、国際的な相互理解を実現するための最善の手段』と語りましたが、ワイツゼッカー氏もまた、平和や戦争というものに対して明確なメッセージを出した方。世界に暴力がはびこる今こそ、その遺志を受け継ぎたいと思いました」と語るのは、同楽団の八巻和彦会長。追悼演奏では、首席トロンボーン奏者の水出和宏さん(商学部4年)が、プロ顔負けの堂々たるソロを披露しました。
続くR.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストゥラはこう語った」では、有名な冒頭部分から、若き音楽家たちが持てる力を全力でぶつけてきます。難易度の高いシュトラウスの作品を、技術的にクリアしているだけにとどまらず、作品に込められた文学性や芳香な雰囲気までもが、日本の学生オーケストラの演奏から聴こえてきたことは驚きでした。
後半の、石井眞木作曲の日本太鼓とオーケストラのための「モノ・プリズム」は、著名な和太鼓奏者である林英哲&英哲風雲の会との共演。雫石が滴り落ちるような和太鼓のピアニシモからホールを揺るがす大音量まで、和と洋の楽器による協奏はまさに圧巻で、心の底から揺り動かされたと言わんばかりに、ベルリンの聴衆は総立ちで喝采を送ったのでした。
左から楽団員の水出さん、藤井さん、福嶋さん
演奏会後のレセプションで、何人かの楽団員に話を聞きました。
「このツアー中で今日が一番まとまって演奏できたと思います。お客さんの反応には感動しました」(コンサートミストレスの藤井琳子さん。政経学部3年)
「我々素人がベルリンやウィーンで演奏会をできるのは、全員が一丸となっているから。1人では何もできませんが、上級生からの財産をしっかり受け継ぎ、100人が同じ方向に向かって取り組めば、きっと何かがお客さんに伝わる。それがオーケストラの神髄だと思っています」(ツアーマネージャーの福嶋雅和さん。教育学部4年)
この公演は、ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールを通してインターネットで生中継されました。ほぼ3年ごとに行われてきた同楽団のツアー。次の来訪が楽しみです。