9月半ば頃から、ベルリンの街のあちこちで、赤黄黒を基調に「Nur mit Euch」(あなたたちと一緒でこそ)と書かれたポスターやパンフレットを見かけるようになりました。10月3日のドイツ統一記念日の中央式典は、毎年連邦参議院の議長役を務める州で行われるのが定例になっており、今年はベルリンにその役が回ってきたのでした。ドイツは16州あるので、前回ベルリンで中央式典が行われたのは2002年。この街に長く住んでいても、そうそう巡ってくる機会ではありません。
今年はこのような意味合いから3日間に渡って大規模な市民祭が行われたのでした。10月3日の昼過ぎ、ポツダム広場から北に向かって歩いてみました。まず目についたのが歩道に貼られた無数の地名のプレート。これはドイツという国を構成する計1万1040の市町村から成る「統一のきずな」というインスタレーションで、北側のベルリン中央駅までずっと続きます。
ドイツすべての市町村が示された「統一のきずな」
ブランデンブルク門はベルリンの壁崩壊時のものと思われる写真で模様替えされ、特設ステージが設置されていました。私は観られませんでしたが、マキシム・ゴーリキー劇場の主催で、50人のさまざまな出自のベルリーナーがドイツの基本法を読み上げるパフォーマンスは大きな反響を呼んだようです。
Freedomの文字が印象的だった統一記念日のブランデンブルク門
そこから西に延びる6月17日通り沿いには、屋台がずらりと並びます。てっきり飲食の屋台かと思いきや、大部分が歴史に関する団体の屋台でした。ドイツ・ロシア博物館、シュタージ博物館、連邦公文書館、等々。 1989年の平和革命から始まって統一後の28年間の歩みを回顧するのにまたとない機会でした。
連邦議会議事堂前の共和国広場では、16すべての州によるテントが並びます。州ごとの観光や産業の特色を生かした内容で、さながら物産展のよう。バーデン=ヴュルテンベルク州のテントで食べたシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは本場の美味しさでしたし、ザクセン=アンハルト州では2019年に100周年を迎えるバウハウスの格好いいデザインのパンフレットをゲット。地元ベルリン市は、この街らしく「多様性」が展示の核になっていました。
とはいえ、ポピュリズムが台頭し、外国人排斥や人種差別の動きが一部で活発化する現在のドイツ、そして欧州を思うとお祭り気分だけではいられません。連邦参議院議長を務めるベルリンのミュラー市長は、この日の祝典で「自由と民主主義は贈られたものではない。われわれ全員によって毎日勝ち取り、守らなければいけないものだ」と挨拶。10月13日には、右傾化する社会に警告を発する大規模なデモがベルリンをはじめドイツ全土で、翌14日はバイエルン州の議会選が行われます。穏やかな日差しの中にもいくばくかの緊張感と不透明感が混ざり合う、今年の統一記念日でした。