聖母教会(Frauenkirche)は、今年の10月30日で再建記念式典から3年を数えます。1945年の大空襲で教会前のノイマルクト広場周辺も被害を受け、教会再建中の期間は地下の遺構発掘調査も含めて常に広大な工事現場状態でした。教会が完成したものの、教会北側に並ぶホテルやレストランだけが賑わいを見せ、それ以外の広大なノイマルクト広場は欠落したような空白地帯でした。
しかし、教会に面した西の区画がショッピングエリアを含む複合施設としてオープンしてからノイマルクト広場は活気づいてきました。特に広場を囲む西側は一気に完成した感があり、ホテル、レストラン、カフェ、土産物屋を始め、覗いてみたくなる店がずらりと揃いました。聖母教会を見るためだけに訪れていた観光客がノイマルクト広場に登場したカフェのテラス席に座るようになると、聖母教会に行くための通過点にすぎなかった広場は人々がしばし時間を過ごす、留まる場所へと変化していきました。
ずらりと並んだカフェのテラス席
広場周辺の飲食店は観光客相手、と侮るなかれ。価格設定は多少高めかもしれませんが、雰囲気と味で地元リピーターを獲得しつつあります。個人的にはビアホールで友人と大騒ぎすることもありますし、ベビーカーを押して散歩の途中に聖母教会の足元が10メートル先に見えるカフェでお茶することもあります。また、高級店がノイマルクト広場周辺に引っ越したことにより、馴染みの場所が空店舗となって寂しさを覚える一方、広場はこれらの店が集合したことで独特の雰囲気を獲得しました。老舗時計および宝飾店ヴェンペ(Wempe)もその中の1つですが、再建された聖母教会の塔に取り付けられている時計はヴェンペのドレスデン支店が資金援助したものです。この店は広場に面した、とある建物の一角を占めていますが、教会の時計を見守っているような素敵な物語です。
このように広場が蘇り活気が戻ると、以前からそうであったかのような錯覚に陥りますが、教会のすぐ北には大空襲で落下したクーポラの一部が立っています。路面にいきなり立つ古い石の壁には小さなプレートが取り付けられているだけですが、それで十分なほどこの残骸は雄弁です。ぜひお見逃しなく。
ノイマルクトに戻ってきた賑わい
大空襲を物語るクーポラの一部
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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