歴代のザクセンの君主が住んだレジデンツ城は1945年の爆撃で大きな被害を受け、85年から修復が始まりました。いつ見ても中も外も工事中だったこの建物ですが、2005年にオリジナル部分を組み込んだモダンな内部が完成し、06年9月にはオリジナルに基づいて再現された歴史的な緑の丸天井(Historisches Grünes Gewölbe)がオープンしました。それに続いて今年の1月31日、3連結した中庭のうち、中央の中庭が新しい入口のホワイエ(ロビー)としてオープンしました。
レジデンツ城の中庭を覆うプラスチックの屋根
巨大な透明の屋根が600平方メートルの中庭を覆い、ルネサンス様式の城にネットを被せたように見えます。これを手掛けたのは、ザクセン州議会議事堂などを設計したドレスデン生まれの建築家ペーター・クルカ。彼は、ベルリンの連邦議会議事堂やドレスデン中央駅のガラスのドームでお馴染みの建築家ノーマン・フォスター卿が手掛けた大英博物館グレート・コート(2000年完成)のアイディアをこの中庭で発展させました。素材はガラスではなく、クッションのように膨らませたプラスチックで、軽量化が施されています。
レジデンツ城全体はミュージアム・コンプレックスとして計画されており、この中庭のオープンによって、その全体像がやっと見えてきたのです。実は、この中庭にはインフォメーションセンターがあるだけで、ほかに特に目的となるような機能を備えているわけではありません。しかし、この透明な屋根のお陰でふんわりと暖かく静かな空間が生まれ、ミュージアムの来館者も、通りすがりに入って覗いてみただけの人も、しばし立ち止まって空間そのものを感じたいと思わせるようなつくりに仕上がっています。
また、ミュージアム・コンプレックスの特徴の1つであるアート・ライブラリー(Kunstbibliothek)は、市民の楽しみや学習、研究といった幅広い利用を目的としています。そのほか、アート関係の本が充実しているミュージアムショップやカフェも併設されています。アートや建築好きにとっては、足繁く通いたくなる場所になるのではないでしょうか。
レジデンツ城のファサードと透明の屋根
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/