アルテ・マイスター美術館入口の長い階段をのぼったところに、巨大な絵が何枚も掛かっています。この美術館の質の高いコレクションに加え、この地ならではのコレクションと言えるベルナルド・ベロットの絵で、18世紀のドレスデンを粒さに描いています。
ヴェネツィアの有名な風景画家カナレットの甥で、非公式にベルナルド・カナレットとも呼ばれたベルナルド・ベロット(1722~80)は1747~58年にかけてアウグスト強王の招待を受けて、ドレスデンに滞在しました。彼は、ピンホール・カメラと同じ原理を利用したカメラ・オブスクラという光学装置を駆使して描いたため、実際の風景が極めて正確に表現されています。
掛かっているのは、建物を精巧に描写したものや、人々の生き生きとした様子を描いた14枚の絵画。描かれた場所はどこも観光スポットなので、「今は車道ができてしまっているけど、昔は人々の大切な市場だったんだ……」「宮廷教会が工事中!」などとタイムスリップした気分で楽しめます。貴族や一般市民、あるいは物乞いの服装、市場の屋台、日常生活のための何気ない道具などが微細に描かれているので、何度観ても飽きることがありません。
一方、画家カナレットの目を体験できるという企画が、エルベ川沿いの散歩道やブリュージュのテラス、ツヴィンガー宮殿といった超有名な観光スポットに立っているイーゼルを模した赤いフレームで、印のついた場所に立つと、そこにイーゼルを立てて描かれた風景の現在の様子が見えるという仕掛け。市内3カ所に設置されています。
ツヴィンガー宮殿裏のイーゼル
これは、ドレスデン市民大学・ドレスデン美術館・ドレスデン美術大学・ドレスデン技術博物館の共同研究プロジェクト「カナレットの軌跡」の一環としてのインスタレーション「ドレスデンの眺め」で、今年5月まで催されています。案内板にはカナレットが描いた風景も設置されているため、昔と今を比較することができます。カナレットの功績は、18世紀当時の様子を伝える記録としての役目のほかに、ドレスデン内で文字通り「絵になる」場所を見つけたということでしょう。ポストカードを買って、このカナレット・ポイントを探して歩くのも楽しいかもしれません。
エルベ川沿いのイーゼル。アウグスト橋と聖母教会がみえます
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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