ジャパンダイジェスト

封印されていた画家ケルニヒ

日本宮殿にほど近い、レストランやブティック、ギャラリーなどが建ち並ぶ閑静な一角に2月26日、プライベートミュージアム「ケルニヒライヒ(Körnigreich)」がオープンしました。ここには30年もの間封印され、忘れられていた画家ハンス・ケルニヒの銅版画と油絵の作品が展示されています。

ケルニヒは、1905年にザクセン州の中央に位置するフレーハ(Flöha)に生まれ、16年にドレスデンに移り住みました。そこで10年ほど電気技師として働いた後、ドレスデン芸術アカデミーで絵画を学び、画家の道を歩みだしました。油絵のほかにも銅版画に取り組んだり、展覧会を開催したりと精力的に活動していましたが、東西ドイツを分断する壁の建設中であった61年、家族を伴って西側諸国へ非合法的に旅行し、ドレスデンには戻らずにバイエルン州ニーダーヴィンクリング(Niederwinkling)に新居を構えました。ドレスデンを最後に訪れたのは88年で、その翌年に亡くなりました。ケルニヒの死後、東ドイツから亡命したということで、市立美術館に保管されていた彼の作品は非公開扱いにされました。ミュージアムの方いわく、「部屋に作品を仕舞い、鍵を掛けてそれっきり」だったようです。92年には再び公開可能となり、ある実業家が作品を発見してミュージアム設立のために尽力しました。

ケルニヒライヒ(Körnigreich)
油絵が展示されている2階

オープンに際して来場した元アルテ・マイスター館長のマルクス教授は、この忘れられていた画家の作品に感動したそうですが、私は小規模な室内に展示されている作品の押し迫るような力にむせ返る感覚を覚えました。描かれている人物にユーモアが盛り込まれている作品が多いのですが、背景が一定して沈む暗さを湛えているため、重苦しさに引きずり込まれそうになります。

「この場所は以前レストランだったと思うのですが」と係員の方に尋ねると、「そうです。この建物の最上階にある屋根裏部屋は26年間、ケルニヒのアトリエとなっていました。偶然にも空きが出たので、かつてのアトリエと同じ建物の1階にミュージアムをオープンすることができたのです」と嬉しそうに答えてくれました。隣接する廃墟のような建物にはかつてのままに“Schlosserei Georg Venus”という文字が見え、ケルニヒはこの機械工場をモチーフに銅版画を制作しています。「彼の作品はこの場所にあるべきなのだ」と、その文字を見ながら納得した次第です。

www.hans-koernig.de

ケルニヒライヒ(Körnigreich)
静かな小道に面したミュージアム

福田陽子さん福田陽子
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/
 
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