ドレスデンの名物は、聖母教会(Frauenkirche)やゼンパーオーパー(Semperoper)だけではありません。郊外を走るレースニッツグルント鉄道(Lößnitzgrundbahn)は狭軌(750mm)の蒸気機関車で、鉄道マニアはもちろん、大人から子どもまで多くのドレスデン住民に愛されています。ザクセン蒸気機関車(SDG)が運営する3つの蒸気機関車のうちの1つで、1884年9月に開通して以来、120年以上も走り続けています。ドレスデンの西数キロに位置するラーデボイル東駅とラーデブルク駅を結ぶ全長16.6キロの路線。駅は計11あり、19もの橋を通過します。
キリスト昇天の5月13日に、ちょうど中間点に位置するモーリッツブルク駅——ラーデボイル東駅間を往復してきました。この区間の所要時間は片道30分。駅で待っていると、汽笛を鳴らし、車輪を軋ませながら蒸気機関車が目の前に走り込んできました。コンピュータ制御に慣れている現代人にとって、蒸気の力で動くメカニックな機関車の姿は、感動すら呼び起こします。
オープン車両からの眺めは最高
迫力満点の列車を見上げていると、車内が何やら騒がしいことに気付きました。すると駅員さんが近寄ってきて、「今日はメナーターク(Männer tag)なので、酔っ払った若者が大勢乗っているのです」と渋い顔。ケースごと持ち込んだビールの瓶を片手に大声で歌って騒いだり、それを投げ付けたり、ねずみ花火を線路に放ったり・・・・・・挙句の果てには、停車している列車の裏側で用を足す者さえ見受けられました。それとは対照的に、シルクハットにブラックスーツという紳士の格好をした3人の年配の男性が、私たち家族と一緒に乗り込みました。ほかにも、鳥打帽に羽を背負った男性グループなど、メナータークを思い思いの装いで楽しむ人を多く見かけました。
驚いたことに、列車は住宅の庭のすぐ脇や遊歩道の脇を疾走し、庭で遊んでいる子どもやカフェタイムを楽しむおじさんたち、ハイキングをしている人たちが手を振ってくれました。周囲の景色も次々と変わるので飽きることがありません。また途中、池の真ん中を通過した時には、まるで水の中を進んでいるような気分に。菜の花の黄色いカーペットやぶどうの段々畑も見事でした。特にオープン車両からの眺めは絶景です!
モーリッツブルク駅に戻ってくると、警察車両と機動隊が待機していました。あまりの大騒ぎに通報があったのでしょうか。トラ箱(保護室)行き確実のへべれけになった若者が機動隊に連れて行かれていました。とんだ珍道中でしたが、思い返す度に笑える良い思い出となりました。
迫力満点の蒸気機関車を間近で
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/