目下開催中のヴェネチア・ビエンナーレ「国際建築展」。今年の総合ディレクターは日本を代表する建築家・妹島和世氏ということで、少々色めき立っています。その開催に先駆けてドレスデンでは、8月6日から15日の10日間、今年で10回目となるドレスデン・ビエンナーレ「ORNÖ」が開催されました。
このイベントの開催場所は毎回異なり、かつては変電所や交通局本社、ガスタンクなどで行われ、最近は引退あるいは半ば廃墟となっている建物や施設が選ばれています。今回の開催場所は、日本宮殿のほぼ向かいに位置する噴水広場や緑地公園の一角に立つ、小規模ながら均整のとれたネオクラシック様式の建物です。
散歩で傍らを通るたびに正体が気になっていた、この廃墟と化した建物は、ドレスデンがナポレオン率いるフランス帝国に属していた時代に建てられ、1913年から43年にかけてはピルナーシャー宮殿のスタッフがその上階に住んでいました。そして1950年代には孤児院の役割を果たし、1960年からドイツ統一までは戸籍役場(Standesamt)として使用され、約7万組のカップルがここで結婚しました。東西ドイツの統一後は放置されていましたが、今回のイベントで約20年ぶりにその扉が開かれたのです。
巨大なメタルアート。後方は日本宮殿
壁を塗ったり配線を施したりと、学生の文化祭のような未完成で手作り感あふれる展示空間ですが、実はこれがドレスデン・ビエンナーレの狙いでもあります。芝の上の巨大なメタルアートから始まり、陶器やアクセサリー、ガラスアート、写真、彫刻、絵画、デジタルアート、インスタレーションなど、ザクセン州の28人のアーティストによる作品がこの小さな建物の地下室から天井裏部屋までを埋め尽くしていました。中2階の床は建設当時のままの古い木の床で、抜けはしないかと心配になり、赤く塗られた壁面の絵画の完成度の高さと床の底抜けの恐怖とで、不思議な感覚を覚えました。
かつて住居として使用されていた最上階にはこぢんまりとした部屋がいくつもあり、真っ青な部屋のテーブルセッティングやトイレのインスタレーションなど、部屋そのものを使った空間インスタレーションが印象的でした。石の構造がむき出しになっている地下室にはコンピューターの実験的アートが置かれていましたが、ひんやりと暗い地下室とパソコンの液晶画面の組み合わせには、異様なほどの不気味さがありました。
意欲的でゲリラ的なこのイベント、次回はどこを会場にして開催されるのか、楽しみです。
寂しげな廃墟だった建物が復活
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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