ドレスデンの旧市街にあるアウグスト橋のたもとの階段を上ると、エルベ川沿いに、川を見下ろすように「ブリュールのテラス(Brühlsche Terrasse)」が続いています。新市街側にはザクセン州内務省や経済省の豪壮な建物を望むことができますが、それと対面するようにブリュールのテラス沿いにも堂々たる建築が並びます。その一番東の端にあるのが「アルベルティヌム(Albertinum)」です。
元々は16世紀に建てられたヨーロッパ最大の兵器庫で、1877年にその役目を終え、84年に美術館として使用されることが決定。著名な建築家ゴットフリート・ゼンパーの弟子であり、ザクセン王国最後の宮廷建築家でもあったカール・アドルフ・カンツラーが改装を手掛けたこの美術館は、当時の国王アルベルトの名に因んでアルベルティヌムと命名されました。1945年の爆撃と2002年の洪水という2度の不幸に見舞われましたが、今年6月20日に全面改装を終え、再オープンしました。
大空間のアトリウム
ゴシック様式の教会建築にガラスや鉄骨など産業革命以降の建材を持ち込むという、最近のヨーロッパでよく用いられる改装手法がアルベルティヌムにおいても見られ、優雅な装飾の断片と白く塗られた壁のコントラストが美しい仕上がりとなっています。中央の広い中庭の上には天井が作られ、大空間のアトリウムが生まれました。カフェとチケット売り場とショップのある一角以外は、まさに「だだっ広い」という感じですが、作品に出会うまでの心のゆとりや、見終わった後の余韻を感じられる贅沢で心地良い空間です。
白いヴォールト屋根(アーチ型を連ねた構造)と中央の列柱が特徴の1階の彫刻室には、有名なロダンの「考える人」やドガの「踊り子」から現代までの作品が展示されています。一見ランダムに配置されているようですが、どの位置から見ても彫刻の重なりが新しい視点を生み、学芸員の苦労とセンスに思わず拍手。2階にはコンテンポラリーアート、世紀末および古典主義の作品が並びます。3階はゴーギャン、ゴッホ、モネ、ピカソ、クレーといったお馴染みの画家の作品、そしてドイツ・ロマン主義の代表格フリードリヒ、ドレスデン美術アカデミーの教授であったディクス、ドレスデン生まれで現代ドイツの画家の最高峰とされるリヒターなど、主にドイツおよびドレスデンに縁のある作家の作品が占めます。
番外編として興味深かったのは、整頓したものの、おびただしい数の彫刻品のために展示スペースが不足し、薄暗い照明の部屋の中のガラスケースにぎっしりと詰め込まれた作品の展示でした。ラファエルやセネカ、古代ローマのカラカラ帝など、世界史の有名人たちに出会えます。
Albertinum:
Georg-Treu-Platz 2, 01067 Dresden
開館 10:00~18:00
料金8ユーロ(割引6ユーロ)
勇壮な姿をみせるアルベルティヌム
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/