日本全国が歓びに沸いたなでしこジャパンのサッカーW杯優勝の記事が各紙に載った日、ドレスデンではもう1つの大きな出来事が話題に上っていました。それは、ザクセン公国の首都ドレスデンを文化の中心地へと発展させた立役者、アウグスト強王(1670~1733)の黄金の騎馬像から剣がもぎ取られたというものです。そのため地元紙には、「アウグスト強王(August derStarke)」ではなく、「アウグスト弱王(August der Schwache)」という見出しが付けられました。
ドレスデンの要の場所に立つ、頼もしいはずの騎馬像
この騎馬像の建造は1736年。アウグスト橋を新市街側に渡ったところに、仁王立ちしています。第2次世界大戦での爆撃後、この像は瓦礫の中から無傷で見付かったと言われ、市民にとっては頼もしい存在です。
事件は7月17日の早朝5時半頃に起こりました。4人の若者グループのうちの1人が、5メートルもあろうかという台座の上によじ登り、腰に差してある剣をもぎ取りました。この広場を見下ろすアパートの住民が騒々しさに目を覚まし、現場を目撃してすぐに警察に通報。犯人らは近くの広場であえなく御用となり、剣は戻されました。
左腰の剣をもぎとられた後の像
翌日、騎馬像を見に行ってみると、市当局の職員数名が写真を撮り、渋い顔で現場検証をしていました。周囲の住民の話によれば、悪ふざけで台座の上によじ登る人は珍しくはないのだそうです。過去にはアウグスト強王が手にビール瓶を持たされたこともあり、それによる損傷の修復費は7000ユーロにも上りました。この騎馬像だけでなく、ドレスデンでは公共の場に多くの貴重な文化財があります。設置された当時のままの姿が今なお見られるというのは誇るべきことですが、多大な出費を伴う破壊行為が度重なると、やはり対策が必要となってきます。
市当局は4年前に監視カメラの設置や高い柵の設置を検討しましたが、しばらくは棚上げされていました。しかし、今回の事件をきっかけに検討は急務という認識になりました。「電流を通した鉄の覆いを被せれば、誰も登れない」と言う人もいますが、仰々しい対策は景観を損ない、何よりも市民から遠い存在になってしまいます。風化防止の意味も込めて、フィレンツェのダビデ像(ミケランジェロ作)のようにレプリカを置き、本物は美術館の中へ、というのがベストな妥協案なのかもしれません。
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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