中央駅はその町の発展の要であり、歴史そのものを背負う代弁者のような存在です。それゆえ、正面玄関には立派な彫像が据えられ、常に威風堂々とした佇まいが求められてきました。ドレスデン中央駅も1898年の開業から今日に至るまで、この町の顔であり続けています。
大きな駅の構内には、鉄道の利用客のためのキオスクや本屋、パン屋などがありますが、昨今では、エキナカ事業が飛躍的に発展している東京の地下鉄などのように、駅はもはや通過点とは思えないほどに変貌しています。ここドレスデンも例外ではなく、万年工事中という印象の強かった中央駅も、ようやくほぼ完成の姿を見せています。世界的に有名な英国の建築家で、ベルリンの連邦議会議事堂のリノベーションも手掛けたノーマン・フォスター卿によって、ドレスデン中央駅のドーム型のガラス天井およびコンコースがノーブルに生まれ変わり、シートで覆われた蒲鉾型の屋根がプラットフォーム上にお目見えしたのはすでに10年程前。鉄道を利用する目的がなくても、ただ訪れても楽しめる場所になったのはここ最近のことです。フレッシュさを前面に押し出した商品ディスプレイで動物園やサービスエリアなどに目覚ましい進出を見せているマルシェ社のレストランが入り、どの町でも見掛ける有名なファストファッションの店が並び、市内では3店目となるスターバックスカフェがあり……と、空港のレストラン&ショッピングエリアを彷彿とさせます。
中央駅の正面。ドレスデンの入り口の顔です
コンコースでは、人通りの多さと立地の良さを利用して、様々な展示が行われています。9月27日まで開かれていたのは、世界報道写真展(World Press Photo)。大判の写真が天井の高い白いコンコースに映え、素晴らしい空間利用の仕方だと感じました。今回の世界報道写真コンテストには32カ国から計5754人の写真家が参加、計9671点の写真が集まりました。その中から選ばれた写真は、第一に報道という性質を持っているのは当然ですが、同時にそこに込められた写真家のメッセージが強烈に伝わってくるもので、さらに写真としての芸術性も備わっており、圧倒されました。個人的に、普段は建築の写真を見る機会が多いので、違う世界を目の前に叩き付けられたかのような衝撃でした。同展は世界100カ所をめぐる巡回展で、ドイツではドレスデンの後、ベルリンの東駅、そしてミュンヘン中央駅を巡る予定です。
世界報道写真展の様子。荷物を持つ旅行者も思わず見入ってしまいます
気が付けば、中央駅で随分と長い時間を過ごしていました。歩いて通り過ぎるだけの駅ではなく、滞在する楽しみを見付けられる駅へ、そして電車に乗る以外の目的でも人がやって来るような駅になりつつあるようです。
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/