ジャパンダイジェスト

ケーブルカー開通120周年

欧州最古の鋳鉄(ちゅうてつ)の橋、通称「青の奇跡(Blaues Wunder)」をアルトシュタット側から渡ると、その先のロシュビッツ地区には、山の斜面に素晴らしい住宅の数々が点在する特徴的な風景が見られます。橋のたもとのクーナー広場には、今年で開通120周年を迎えるケーブルカーの発着駅があり、全長547メートルのケーブルカーは、この広場とヴァイサー・ヒルシュの町を結んでいます。高低差は96メートル、最大勾配率は29.8%で、階段状の車両の定員は最大59人です。

ヴァイサー・ヒルシュ駅の駅舎
ヴァイサー・ヒルシュ駅の駅舎

19世紀初頭に、ロシュビッツ地区の斜面に裕福なドレスデン市民が住み始め、それに伴って市民の足となるような交通機関への需要が高まりました。1895年10月26日に開通した当初は、近郊ウビガウの造船所で製造された動力を用いた蒸気機関によって走行し、1900年までは、乗客のほかに馬や牛も運搬していました。1909年に電気モーターが導入され、1912年にはドレスデン市の所有となり、現在ではトラムやバス、フェリーなどを運営するドレスデン交通局の管轄となっています。

1945年のドレスデン大爆撃の際に、ふもとのクーナー広場の駅が破壊されましたが、車両は路線の途中に2カ所あるトンネル内に避難させていたため、被害を免れました。開通から83年後の1978年に大規模な改修が、また、1993年にも改装が行われました。

クーナー駅を出発すると、直後に最初のトンネルに入り、緩く蛇行しながら走ります。すぐ真横にはUカーブの坂道を走る車が見え、ドレスデンの見慣れた町並みがぐんぐん下方に広がり、平坦な地形のドレスデンにこのような勾配のある山があったことに驚きます。山の上に立つレンガ造りのヴァイサー・ヒルシュ駅は文化財に指定されており、屋根の上の風見鶏や、ホームの屋根の内側の垂木に描かれたかわいらしいレトロな幾何学模様、かつては切符の販売窓口であったと思われる回転皿のついた小窓など、120年間の歴史を彷彿させるものが随所にあります。

ホーム内の天井
ホーム内の天井にはレトロな幾何学模様が

駅の目の前は、塔と大きな三角屋根がシンボルのレストラン「ルイーゼンホフ」がある以外には売店もなく、閑静な住宅地です。ドレスデン交通局が勧める散歩ルートに沿って、クアパーク(Kurpark)の展望台に行ってみました。町を眼下に見下ろせる絶景ポイントということでしたが、大木に遮られ、期待した眺望はありませんでした。オープンした1932年当時は、おそらく周囲の木も低く、良い眺めだったことでしょう。

その展望台には、1854年にバイエルンでの休暇に向かう途上のチロルにて、馬車の事故で不慮の死を遂げたザクセン国王フリードリヒ・アウグスト2世を記念するオベリスクが立っています。いたるところで、小さな歴史のかけらに触れた散歩となりました。

福田陽子さん福田陽子
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/
 
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