1870年創立のドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団。そのコンサート・ミストレスを務めるのがドレスデン生まれ&育ちのハイケ・ヤニケさんです。偶然ですが、我が家が引っ越した住宅の真下に住んでいたのが彼女で、10年以上の隣人同士です。彼女は現在10代前半の二人の息子さんの母親でもあり、子供の父親がスイス在住になった後はシングル・マザー状態で子育てをしながら演奏家として活躍しています。
自宅のリビングにて年季の入った楽譜をチェックするヤニケさん
1962年生まれの彼女は研究者の両親のもとに育ちました。両親と兄(現在ケルン・フィルハーモニーのコンサート・マスター、トーマス・ヤニケ氏)もバイオリンを演奏し、自宅には山のようにレコードがあったそうで、音楽の道に進むことは自然でした。彼女は5歳でバイオリンを習い始めましたが、本人の希望はチェロ。体が小さいうちはバイオリンを習うことを勧められ、数年後に「上手だからバイオリンを継続しなさい」とアドバイスされたとのこと。ドレスデンの音楽大学に進学、各国際コンクールで受賞し、東独時代にはソリストとして活躍しました。
しかし1989年の壁崩壊後、彼女が所属する事務所が閉鎖され、優秀な若手演奏者として文化省から貸与されていたバイオリンを返却しなければならない憂き目に遭いました。仕事と楽器を一度に失った彼女は自力で次の職を探さねばならず、どうせなら最高の場所に、と挑戦したベルリン・フィルハーモニーに見事合格、91年から93年まで所属しました。当時の恋人がロンドンにいたため93年からロンドン交響楽団に所属。95年からはドレスデン・フィルハーモニーと掛け持ちし、長男を出産した2000年までロンドンとドレスデンを往復する生活でした。「あの当時は子供がいなかったから仕事だけに専念できたのよ。男性と同じよ」と笑う彼女は子育てと仕事の両立という課題にも挑戦してきました。家族のサポートを受けて国内外のコンサートを乗り越えてきました。留守の時には子供たちへのメッセージをノートに書き、「ママはこの仕事が好き」という姿勢を見せて理解してもらう努力をしてきたといいます。
「第3の腕」である1722年製のジョバンニ・グラチーノの名器と
彼女自身、ローラーブレードや自転車といったスポーツを楽しみ、大のグルメ好きで料理の腕前は相当なもの。海外公演で定期的に日本を訪れているため日本にも詳しく、11年の東日本大震災の時には、オーケストラの日本公演はキャンセルになりましたが、1996年に同僚と結成した弦楽トリオとして周囲の猛反対を押し切って来日しました。
現在の消防法に不適合という理由で急きょ改修工事を余儀なくされた本拠地の文化宮殿がいよいよ2017年4月末にオープンします。楽団員が待ち望んでいた新しいホールで、今後のドレスデン・フィルハーモニーとヤニケさんの活躍が楽しみです。
www.dresdnerphilharmonie.de横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/