ジャパンダイジェスト

夏のオルガン祭で600年の歴史と伝統を聴く

ハンブルクといえば、港やエルベ川、そして倉庫街などが有名ですが、実は「オルガンの街」と呼ばれていることをご存知でしょうか。以前、シュターデの街を訪れた際(本誌1220号)に、聖コスマエ教会のパイプオルガンに出会いました。その制作者であるアルプ・シュニットガー(1648-1719)について調べているうちに、ハンブルクとその近郊には300以上もの歴史的にも貴重なオルガンがあることを知りました。シュニットガーは、北ドイツのバロックオルガンの完成者ともいわれ、ハンブルクにも彼のオルガンがいくつか残っています。1693年に造られた聖ヤコビ教会のオルガンは代表的なシュニットガーオルガンです。

シュニットガー制作のパイプオルガンシュニットガー制作のパイプオルガン

ハンブルクは古くからハンザ都市として栄え、経済的に恵まれていたことも、オルガン文化の発展に関係があるようです。ハンブルクには多くのオルガン職人が集まり、技術と性能の向上のために切磋琢磨したのだとか。当時から、ハンブルクのオルガンはその独特の音色や製作技術で知られていました。かの有名なバッハが、「ぜひハンブルクのオルガンを弾いてみたい」とハンブルクを訪れたという逸話も残っているほどです。ちなみに若き日のバッハは、聖ヤコビ教会のオルガニストの職に応募しましたが、結果不採用となり(!)、後にライプツィヒの聖トーマス教会のオルガニストとなったのでした。

聖ミカエル教会の壮大なパイプオルガン聖ミカエル教会の壮大なパイプオルガン

宗教改革の時代には、オルガンは新しい神学に反するとされ、多くのオルガンが壊されてしまいました。しかしルターは、礼拝のみに使用するという条件で教会にオルガンを残すことを決め、ハンブルクのオルガンは一つも壊されることがなかったそうです。しかし多くは度重なる火災や戦争で憂き目に遭い、そのたびに修復を重ねてきました。長い歴史の中で職人たちが大事に守り続けたオルガンは、現在も教会には欠かせないものとなっています。

シュニットガーが埋葬されている、聖パンクラティウス教会のオルガンシュニットガーが埋葬されている、聖パンクラティウス教会のオルガン

今年も、6月末~9月初めまで、恒例の「夏のオルガン祭」(Hamburger Orgelsommer)が開催されています。毎日六つの教会でオルガンコンサ-トが開かれ、国内外から招かれたオルガニストたちが、バロックから現代音楽まで、多彩な音楽を演奏します。さまざまな教会でオルガンの音を聴き比べるのも、興味深いと思いました。

私は今年、聖ミカエル教会でのコンサ-トに行って来ました。パイプオルガンは「楽器の女王」と言われていますが、確かにその名にふさわしく、荘厳で気高く、まるで天に向かって伸びていくような音に圧倒されました。ふと「ただ、神のみに栄光を!」という、信仰深かったシュニットガーの言葉を思い出しました。

岡本 黄子(おかもと きこ)
ハンブルグ郊外のヴェーデル市在住。ドイツ在住38年。現地幼稚園で保育士として働いている。好きなことは、カリグラフィー、お散歩、ケーキ作り、映画鑑賞。定年に向けて、第二の人生を模索中。

 
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