5月23日、ハンブルクのタリア劇場(Thalia Theater)にて、モーツァルト作曲のオペラ『魔笛』が狂言バージョンで上演されました。この演目は、ドイツの他都市でも上演されたのでご覧になった方もいらっしゃると思います。狂言といえば、能の合間に上演される喜劇。私自身、日本で狂言の舞台を観たことはありませんでした。今回の公演は西洋音楽と純日本伝統芸能のコラボレーションということですが、日本の伝統的な歌唱技法は、西洋音楽の声楽技法とは真っ向から相反するもの。当日まで、「それらをどうやって融合するのかしら?」とあれこれ想像を膨らませていました。
さて、その結果はと言いますと、ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンの管楽ソリストたちが、序曲やアリアを西洋スタイルのまま演奏し、京都狂言の茂山千五郎ファミリーがそれぞれの役柄を狂言スタイルで演じるという絶妙なコラボレーションでした。狂言役者は伝統的に男性に限られているので、今回、タミーナ役(王女)は絵姿のみとなり、3人の侍女は割愛され、3人の童子役は能の舞手が1人で務めていました。
和と洋の融合と成し遂げた演奏者と狂言役者の皆さん
エピローグで、童子役が鼓の音に合わせて「不思議な笛」の話を伝統的な日本のスタイルで朗ろうしょう誦しながら舞い、舞台の幕が上がりました。能の謡うたいと狂言のセリフは日本語で上演され、ドイツ語字幕が付けられていましたが、細かい笑いのニュアンスは日本語が分からないと残念だな、と思われる個所が多々ありました。また、パパゲーノは終始関西弁で砕けた感じがよく出ていたのに対し、タミーノ王子は「かたじけない・・・・・・」と昔ながらの固いセリフ回しで、几帳面な性格が表れていました。
日本語の狂言スタイルにするにあたってザラストロを昼の教祖とし、モノスタノスをザラストロが教祖の仮面を外したときの内面の人格として1人で2役を演じるように設定されていたため、物語に独自の解釈が生まれていた点も非常に興味深かったです。自分を隠して仮面を被っていると自由になれず、他者を受け入れ難くなり、お互いを支配しようとしてしまうことや、昼と夜はお互いを駆逐しようと争うのではなく、どちらも必要な存在であり、男性と女性はどちらも等しく尊いことなどが語られていました。
楽しい笑いに美しい音楽、深く考えさせられるストーリーと、とても贅沢な夜でした。『魔笛』を狂言風に表現しようと思い付いた方に、「あっぱれ!」と拍手を送りたいと思います。
ギリシャ風の外観を持つタリア劇場
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