最近鑑賞したコンサートの中で格段に印象深かったのが、ベンジャミン・ブリテン作曲の「戦争レクイエム」です。プロテスタント教会大会のプログラムの一環として企画され、5月2日にハンブルクの聖ペトリ教会、続いて3日に聖カタリネン教会で演奏されました。
この曲は、イギリス中西部の街コヴェントリーに建立された聖マイケル教会大聖堂の献堂式のために作曲されたもので、1962年に初演されています。この街は、第2次世界大戦中にドイツ軍の空爆によって壊滅させられてしまいました。通常、レクイエムは鎮魂歌と訳され、「死者の魂がキリストのゆえに救われ、天国に迎え入れられ、安らかであるように」という一連のラテン語の定型詩に曲が付けられていますが、この戦争レクイエムはラテン語の定型文に加え、ウィルフレッド・オーエンによる英語の詩が随所にちりばめられています。オーエンの詩では戦争の悲惨さが表現され、「人々は国家の大義のために犠牲になっており、このまま進めば人類は滅びるだろう」と語られています。彼の反戦への強い祈りが感じられる詩です。
教会前方で演奏した大合唱団とオーケストラ
聖カタリネン教会のコンサートでは、演奏者を2つのグループに分け、前方にオーケストラと合唱団、ソプラノ・ソロ、後方はオルガン近くの2階席に室内楽と少年合唱団、テノールとバリトン・ソロを配置し、指揮者も2人立てて、それぞれのグループを指揮する形を採っていました。最初、この配置を見たときには、グループ同士が結構離れていて時差があり、教会の中は残響が長いので、「演奏がバラバラにならないかしら」と思いましたが、2グループの呼吸は信じられないほどぴったりと合っていて、緊張感のある素晴らしい演奏でした。しかも、前方と後方からの相互の語り掛けのような効果があり、教会全体が音楽の世界に包まれていました。最後は「安らかに眠れ、アーメン」という、静かな合唱に続いて教会の鐘が密やかに鳴り響き、「この曲は教会で演奏されるために作曲されたのだ」という思いを新たにしました。
後方のオルガン近くで演奏された室内楽。
この後ろで少年合唱団が歌っていました
今回のコンサートは聖ペトリ教会と聖カタリネン教会による共同プロジェクトで、それぞれの合唱団が共同で演奏しましたが、特筆すべきは戦争レクイエムの生まれた地から、コヴェントリー少年合唱団が参加したことです。かつては敵同士だった2国が共同で反戦の歌を歌う。これはブリテン自身も願っていたことであり、ここに、このコンサートの大きな意義を見ました。
ハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?