俳優の緒形拳さんが葛飾北斎(1760~1849)に扮して、その波乱万丈の人生を描いた映画のタイトルが「北斎漫画」だったと記憶していますが、現在、「HOKUSAI×MANGA(北斎X漫画)」という特別展が、ハンブルク美術工芸博物館で開催されているので行ってきました。
美術館の壁に貼られた「北斎X漫画」特別展の大ポスター
北斎といえば、江戸時代の浮世絵師として「富嶽三十六景」が有名で、「神奈川沖浪裏」の画面いっぱいに逆巻く波間から小さな富士山がのぞいている作品は、誰もがご存知の1枚でしょう。そのため彼は、歌麿や写楽と比べて風景画家と思われがちですが、実は人物や本の挿し絵も描いています。中でも「富嶽三十六景」と並ぶ代表作が、「北斎漫画」という絵手本として書かれた15編のスケッチ集とのことです。
「漫画」とはもともと、「折に触れて、筆の赴くままに描いた絵」という意味だそうで、あらゆるものを題材に描かれており、作品により江戸文化を知ることもできます。人体一つをとっても、様々な表情やありとあらゆる体勢のスケッチがなされており、「北斎漫画」は確かにお手本集だと納得しました。
「北斎漫画」のスケッチ
「北斎漫画」は19世紀中頃には欧州にも伝えられ、印象派の画家たちに多大な影響を与えたといわれています。そして、18世紀後半から、「黄表紙」と呼ばれる、現代の漫画の原型のようなものが流行しました。これは、余白部分に絵の内容を表すストーリーが書かれていたり、1枚の絵の中に、いくつかの場面が割り振られたりするもので、内容も風刺的なものだったり、言葉遊びが含まれていたりと、大人向けだったようです。この特別展では、北斎だけでなく、同時代の作家の浮世絵作品や黄表紙が多数展示されていました。
さらに、黄表紙を起源にして連なる漫画文化の発展の様子がテーマごとに展示されていて、とても興味深いコンセプトだと思いました。例えば、江戸時代の怪談や妖怪の話が「ゲゲゲの鬼太郎」につながり、宮崎駿氏の「もののけ姫」などに流れていく。歌舞伎でも取り上げられていた英雄談が、サムライ漫画につながり、ロボット・ヒーローアニメに広がっていく、といった具合です。
ほかにも、「のらくろ」「鉄腕アトム」「はだしのゲン」「AKIRA」、少女漫画では「ベルサイユのばら」などが紹介されていました。漫画好きの方にとっては、「なぜ自分の一押しの作品が紹介されていないのか?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、最終的にはコンピューターゲームの画像の展示まであり、幅広い内容でした。この特別展は9月11日まで。ドイツで日本の漫画の歴史に触れる、興味深い体験ができます。
www.mkg-hamburg.deハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?