ジャパンダイジェスト

ダンスで社会を変えていく!市民をつなぐプロジェクト

人生で初めて舞台へ上がったのはいつだったでしょうか。僕の場合、小学校の演劇の端役。観客からの視線を受けながら体を動かした記憶はおぼろげですが、舞台に立つということは子どもながらにも覚悟を必要とした時間でした。

この春9歳になった娘が、ブラウンシュバイク国立劇場が主催する「tanzwärts!Generationen」という市民参加型のダンスプロジェクトに参加しました。ダンス未経験の市民が、プロのダンサーとの6週間の稽古を経て、コンテンポラリーダンスの舞台を作り、最後には鑑賞券を購入した観客の前で成果発表します。2015年から始まったこの企画に、これまで約1000人の市民が参加してきました。今年のテーマは「世代」。親子、祖父母と孫、若者など7〜84歳の市民54名が集い、なかにはクラス全員で参加する小学校も。わが家では母娘二人が参加し、僕を含めた残りの家族はプレミア公演を観に行きました。

会場に到着すると、参加者の家族や友人が多く和やかな雰囲気でしたが、舞台が始まるとそれは一変します。プロの音響、照明が設置されたステージで、パフォーマンスが堂々と繰り広げられました。せりふはほぼなく、体の動きを通して世代間の衝突や、世代を超えた助け合い、歳を重ねていく意味などが表現されていきます。娘は事前に受けたラジオ局のインタビューで、学校に通いながらの6週間の稽古は大変だったと語っていましたが、舞台を見て、その練習量が改めて伝わってきました。終演後の参加者の顔を見て、とてもいい経験になっただろうなと思いました。一緒に観劇した友人も、ぜひ次の機会に参加したいと言っており、ダンスを通して市民間の交流の輪が広がっていくのを感じました。僕自身も来年は末っ子と一緒に挑戦したいです。

地元ラジオ局でインタビューを受ける母子地元ラジオ局でインタビューを受ける母子

このダンスについての文章を頭の中で練っているときに、アフリカ系コロンビア人の若者たちが踊る映画「UNLESS WE DANCE」を見ました。彼らが住む地域は犯罪率が高く、抗争に巻き込まれ、命を落とす若者も少なくありません。失業率も高く、自ら犯罪者グループに手を染めていく若い人たちも出てきます。この映画では、そんな身近な暴力に対抗するために作られたダンスグループの活動を描いていました。

「UNLESS WE DANCE」「UNLESS WE DANCE」

そしてこの作品は、今年のオーバーハウゼン国際短編映画祭で16歳以上の若者が選ぶユース部門で最優秀賞を受賞。僕自身もこの映画を観て、パフォーマンスを通じて地域を変えていこうとする若者の身体表現の力強さに心を打たれました。監督はコロンビアの若者。映画祭では、映画制作中に亡くなってしまった友人についても語っており、現実の過酷さに言葉を失いました。それぞれの地域が抱える社会課題に対して、身体表現や芸術活動は何をすることができるのか。その可能性と課題について考えさせられました。

国本 隆史(くにもと・たかし)
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
takashikunimoto.net
 
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